こんにちは
現在の虫歯治療では、虫歯が歯の奥深くまで進行すると、歯の神経を取り除いて、被せ物をつける治療を行います。
この方法は、深い虫歯の治療法としてはスタンダードなので、実際、日本だけでなく海外の歯科医院でも広く普及しています。
ところが、あまり知られていないことですが、歯の神経を取り除くという処置は、さまざまなリスクを歯にもたらしています。
できることなら歯の神経は取らない方が良いとされるほどです。
もちろん、神経を残したばかりに歯が痛くて日常生活にも支障が出るというのはよくないですが・・・。
今回は、歯の神経をできるだけ残しておいた方が良い理由を中心にお話しします。
〇歯髄の役割
歯の神経は、正しくは歯髄(しずい)といいます。
歯髄には、歯の神経だけでなく、血管もあるからです。
歯髄には、さまざまな役割があります。
●歯への栄養供給
一見すると生きているようには見えませんが、歯も生きていますので、栄養や酸素を必要としています。
歯髄に含まれる血管は、歯が必要とする栄養や酸素を送り届け、歯から老廃物を受け取って回収するという役割も担っています。
●細菌から歯の内部を守る
ヒトの身体は、常に細菌やウイルスの脅威にさらされており、さまざまな免疫細胞の働きによりそれらから守られています。
免疫細胞は、血液の流れによって運ばれ、身体の各所に届けられています。
歯の内部も同じで、歯髄の血液の流れによって免疫細胞が届けられ、歯を病原菌から守っています。
●異変を感知する
冷たいものや甘いもので歯が痛くなるのは、歯髄に含まれる神経の働きによるものです。
歯が痛くなる原因にもなりますが、歯髄は歯に何らかの異変が起これば、すぐに気がつくよう、センサーとしての役割も持っています。
●第二象牙質を作る
虫歯やすり減り、歯根の露出などの刺激で歯が痛くならないように歯の内側で象牙質が自然に作られる仕組みがあります。
歯が生えてから増えてくる象牙質を第二象牙質といいます。
歯髄には、歯が痛くならないように第二象牙質を作らせる働きも持っています。
〇歯髄を取り除いた場合のリスク
虫歯治療で歯髄を取り除いたらどうなるのでしょうか。
●歯が脆くなる
例えば、元気な木はそうではありませんが、枯れた木は脆くなり、ポキポキと折れやすくなりますよね。
歯も同じで、歯髄を失った歯は、栄養や酸素を受け取れなくなるので、歯が弱く、そして脆くなります。
歯自体が硬いので、すぐに折れたり欠けたりすることはありませんが、数年から10年ほど経てば、歯が折れたり割れたりするようになります。
●抜歯
歯髄を取り除くほど進行した虫歯の歯は、そのままでは被せ物をつけることができません。
そこでメタルコアという土台を歯の根にセットしてその上に被せ物を入れます。
ところが、メタルコアの先端部分には噛み合わせたときの力などが集中しやすい傾向があり、これが原因となり歯根が折れるということがしばしば起こります。
歯根が折れる歯の治療は、原則的に抜歯です。
●虫歯が程くなるまで気が付かない
歯髄を取り除いた歯に虫歯が再発しても痛みという信号が出ないので気がつくことはありません。
虫歯は、歯の内部でゆっくりと、着実に広がります。
歯の内部の広い範囲が虫歯で壊されてしまうと、歯が支えられなくなります。
歯がぽきっと割れて虫歯が再発していたことに気がつくということも珍しくありません。
●膿がたまる
歯髄を失った歯の内部は、身体の中で唯一免疫細胞が作用しない空間になります。
そこで細菌が増えても私たちの身体は対処することができません。
歯の内部で増えた細菌は、歯の根の先から出て、身体の内部に入り込もうとし、そこでようやく免疫細胞による防御を受けます。
この結果、歯の根の先に膿がたまるようになります。
歯髄を取り除いた歯の近くの歯髄が腫れるのは、これが理由であることも多いです。
●蓄膿症を起こす
上顎の奥歯の根の上には、上顎洞という骨の空洞があります。
上顎洞は、蓄膿症で膿がたまる空洞として知られています。
歯の根の先に膿がたまると、上顎洞に伝わり、上顎洞炎という蓄膿症を引き起こすことがあります。
●歯が変色する
歯髄を取り除くと、象牙質の内部から水分が失われると同時に、象牙質に含まれるコラーゲンが新しく作られなくなるので、劣化してしまいます。
このため、年月が経つと、歯の色が黒っぽい、暗い色合いに変わってしまいます。
〇歯髄を取り除いた方が良いケース
歯髄を取り除くとさまざまなリスクが起こり得るわけですが、それでも歯髄を取り除いた方が良いケースもあります。
●強い痛みの虫歯
ズキズキとした強い痛み、どこの歯が痛いのかわからないほどの強い痛みなど、虫歯の痛みが激しい場合、歯髄を取り除いて歯の痛みを緩和しなければなりません。
●歯冠の大部分を失った虫歯
ケガや虫歯で歯冠のほとんどがなくなったような歯は、そのままでは被せたり詰めたりできないので、歯根に土台を立てて被せるようにします。
歯髄を残したまま歯根に土台を立てることはできないので、歯髄を取り除く必要があります。
●歯髄が壊死した歯
虫歯や外傷で歯髄がダメージを受けると、歯髄が壊死(死んでしまうこと)することがあります。
壊死した歯髄は、細菌に対する抵抗力を失うため、歯の内部が細菌が繁殖する温床となってしまいます。
この場合も、細菌を取り除くためには壊死した歯髄組織を取り除く治療が必要です。
〇まとめ
今回は、「歯の神経は取らない方が良い」は本当?ということで、歯髄を残した方が良い理由についてご説明しました。
歯髄には
①歯への栄養供給
②細菌から歯の内部を守る
③異変を感知する
④第二象牙質を作る
などの役割があり、
それを取り除くと
①歯が脆くなる
②抜歯
③虫歯がひどくなるまで気がつかない
④膿がたまる
⑤蓄膿症を起こす
⑥歯が変色する
などのリスクが生じます。
一方、歯髄を取り除くメリットは、歯の痛みがなくなる、細菌感染を防ぐなど限定的です。
したがって、歯髄はできるだけ残しておいた方が良いとされており、虫歯になった場合、放置することなくできるだけ早く治療を受ける方が良いです。
ただ、歯髄を残す、もしくは取り除くといった判断にはなかなか難しいものがあります。
当院では、虫歯治療の専門知識に加え、豊富な治療経験をもとに、歯髄をできるだけ残す治療を進めています。
もちろん、どのような虫歯でも神経を残した治療をしているわけではなく、取り除く治療が良い場合はそう説明させていただいております。
もし、できるだけ歯の神経を残した治療を受けたいとお考えの方は、ぜひ当院でご相談ください。