<治療を成功に導く患者様と医療側の関係性とは?>
近年、歯科医院には歯が痛いときだけではなく、予防のために定期的に通院される方が多くなり、お口の健康に関心を持つ方が増えてきました。
こういったオーラルケアへの意識が高まるにつれ、ホワイトニングやデンタルエステといった自由診療を扱う歯科医院もよく見かけるようになりました。
このような歯科業界の変化の一方で、患者様と医療従事者の間の関係性においても、ひと昔前とは異なる関係性が垣間見え、同時に、そこには課題点も見えてきています。
今回は、現在の「医療を受ける側」と「医療を施す側」との関係性やその中で生じている問題点、また医療における双方の理想的な関係とは何か、について考えてみたいと思います。
〇現代の「医療を受ける側」と「施す側」の関係性について
ひと昔前まで、「医療を受ける側」である患者と「医療を施す側」の代表である医師との関係は、父権主義と呼ばれ、専門的な知識を持つ医師が主導権を握り、治療の選択権は患者側にはなく、医師が治療方針を決定していくというものでした。
それが今では、医師は患者側が選択・意思決定ができるようにあらゆる治療の情報を提供し共有する、という協同関係にあることが重視されるようになってきました。
これによって、医師から一方的に治療方針を決められるのではなく、患者側の自身の病気への向き合い方や、治療方針に対する意思決定や意見が非常に尊重される関係性になったといえます。
「患者のニーズに応える」というのも今の医療においてしばしば聞かれるキーワードになっています。
ただ一方で、こういった背景から、医療者側が、患者様から治療において過度な要求を受けることもよく耳にするようになりました。
こうなると、双方の関係は上手くいきませんし、やはりなかなか治療はスムーズには進みません。
このようなことから、今回は今一度、「医療」の捉え方や医療者と患者側の関係性の在り方について改めて考え直してみたいと思います。
●「患者様」=「お客様」ではない
上で述べたように、歯科ではデンタルエステなどのようにいわゆる「サービス」「おもてなし」の要素が強い処置も増えてきました。
そこで一つ考えてみたいのが、「医療」=「商品・サービス」という捉え方です。
医療を受けた後は、必ず、患者側にはお金の支払いが発生します。
これはいわゆる、物、サービスなどの商品を得るのにお金を支払う、という構図と似ています。
しかしながら、「医療」はけっして「商品」ではありません。
医療者は物を売っているわけではなく、医療行為を行っています。
患者様においても、医療においてお金を支払うというのは、医療行為に対する報酬を支払う、ということであり、物を買う、ということではありません。
それが、医療をあたかも商品のように捉えてしまった場合、
「お金を支払っているのだから、患者はお客であるも同然である」
「少々無理な主張をしても、お客としてお金を支払っているのだから構わないではないか」
という論理になりがちです。
しかし「患者様」は「お客様」ではありません。
医療は「人の身体、命」を対象としており、物やサービスのように替えが効くものではありません。
患者様の意思、意見が尊重されることは大事ですが、医療においては、何より患者様の身体、命が最優先されます。
そのため、その時の病状や医学的な見地から、患者様の意思や要望が通らないことも少なくありません。
医療者側は治療のゴールに向けてどのような計画で進めていくか患者様にしっかり説明する義務がありますが、一方の患者様自身にも、その治療計画を理解し、ゴールに向けての努力や協力をしてもらう必要があります。
もし今、「患者様はお客様である」というスタンスでいらっしゃる方がいれば、是非、少し認識を変えていただき、今後の治療に一緒に取り組んでいただければと思います。
結果的に治療をスムーズに進めることに繋がりますし、何より患者様のメリットになります。
●歯科の「医療行為」の考えかえた
医療行為というのはきわめて専門的な治療行為です。
医学的知識をもって、専門のトレーニングを積んだ者が行うものです。
現在の医療行為にはエビデンスに基づいた治療ガイドラインがあり、特に保険診療では、使える材料、薬品、しかるべき治療ステップ等が細かく定められています。
ですので、患者様から特別に治療の進め方に関する要望があったとしても、その要望が定められた範囲から逸脱した行為である場合、医療者側はそれにお応えすることはできません。
一方で、歯科医院においては、予約が当日キャンセルになったり、あるいはそのまま来院が途絶える、というのを日常的に経験します。
歯科医師が治療の順序を決めることや通院間隔を指示することなどは、重要な治療ステップ、医療行為の一つであり、患者様によってそのタイミングがずれると、症状がさらに悪化することがあります。
一般の歯科治療の削る、詰める、消毒する、など処置内容からすると、どうしても直接命に関わる医療行為というイメージが湧きにくいかもしれません。
そのため歯科の医療行為の重要性やその捉え方、考え方においても、患者様と医療者側で温度差が生じやすく、上記のようなことが起きるともいえます。
しかし口腔内の健康の維持は全身の健康に関わるもので非常に重要です。
患者様には、治療を受けるにあたってこういったことを心に留めていただけると、医療者側も治療が進めやすくなり、双方にとって良い結果を得られやすくなります。
●患者様と医療者の協働関係が大切
医療において患者様が主体になるというのは非常に重要なことで、患者様の意向をしっかり汲み取って治療に反映するというのは医療者にとって必須であると言えます。
ただ、その一方で、医療行為が命に関わっている行為であるという性質上、治療の選択を誤れば命にも関わります。
こういった意味で、治療計画は医療者の専門的な見地からの見立てと患者様の意思とのバランスがしっかりとれている必要があります。
そして治療というのは、やはり患者様と医療者の共同作業であり、その治療の成功には双方の努力がなければ成り立たない、というのがここまでの内容からおわかりいただけたかと思います。
近年、医療業界は歯科含め、患者様と医療者側の双方の関係性は大きく変化してきましたが、これから先の患者様と医療者側の理想的な在り方として、両者が「協働関係にある」ことが重要といえます。
そして、病気を治して健康的な生活を送るという共通ゴールに向けて、一緒にこのような関係性を築いていくことがこれから求められます。
以前、「お金を払う側が『ありがとうございます』と言うのはおかしい」とのご意見もありましたが、そういった古くからの風習のようなものも、それはそれでよいのではないかと思うのです。