こんにちは

歯がなくなった後の治療法として、入れ歯が普及しています。

ブリッジという治療法を聞いたことがない方でも、入れ歯を聞いたことがないという方はいないでしょう。

それほどよく知られている入れ歯ですが、実は虫歯治療や歯周病治療と比べて、入れ歯治療はとても難しいのが実情です。

入れ歯が出来上がった後、何度も調整に通院を繰り返すことも珍しくありません。

入れ歯治療が難しい理由はさまざまですが、そのひとつにお口の”粘膜”があります。

そこで今回は、入れ歯作りが難しい理由をお口の粘膜という視点からご説明します。

〇歯型取りの比較

入れ歯作りの第一歩は歯型取りです。

入れ歯作りが難しい理由のひとつが歯型取りなので、入れ歯作りと虫歯治療の歯型取りの方法を比べてみましょう。

作りたいものが異なるのに、意外とよく似ていることがお分かりいただけると思います。

●入れ歯(総入れ歯)の歯型取り

入れ歯作りで大切なのは、粘膜の状態を再現することです。

お口の粘膜の状態を再現するために歯型を取ります。

総入れ歯の歯型取りでは、水を混ぜて固めるアルジネート印象材という歯型取り剤を使います。

アルジネート印象材は、ピンク色をした粘土のようなもので、歯型取り剤の中では歯科で最も広くつかされています。

アルジネート印象材の主成分は、アルギン酸ナトリウムです。

食品や歯磨き剤などにも配合されており、意外と身近なものです。

●入れ歯(部分入れ歯)の歯型取り

部分入れ歯の歯型取りでは、総入れ歯のようにアルジネート印象材を使いますが、クラスプという金具をかける部分については、寒天印象材も使うことがあります。

歯型を取るときに、温かいものをお口に感じたことがあると思いますが、その温かいものの正体が寒天印象材です。

寒天印象材は、細かなところを型取りするのに適しています。

お口の粘膜部分はアルジネート印象材で、金具をかける歯の部分は寒天印象材で、型取りをします。

このように、アルジネート印象材をベースとして寒天印象材を組み合わせた歯型取りは、連合印象法とよばれており、40年ほど前に保険診療に組み入れられた日本発の歯型取り法です。

●虫歯治療の歯型取り

虫歯治療では、インレーやクラウンといった詰め物や被せ物治療がしばしば行われます。

インレーやクラウンの歯型取りも、先にお話しした連合印象法が用いられています。

入れ歯作りの歯型取りも、虫歯治療の歯型取りも同じ方法が使われていることがわかります。

なお、セラミッククラウンの場合は、シリコン印象材というゴム系の歯型取り剤を使うこともあります。

シリコン印象材は高価なのですが、寒天印象材よりさらに精密な歯型取りができます。

●歯型を取った後

歯型を取った後は、入れ歯治療も虫歯治療も、石膏を流し込んで、歯やお口の形を再現した石膏模型を作ります。

〇粘膜と歯の歯型取りの比較

歯型取りの方法は同じなのに、その対象となる粘膜と歯では、形だけでなく物理的な性質も大きく異なります。

●粘膜

粘膜は、軟らかいので、指で押さえると凹みますし、つまんでみると、少しは動きます。

このように粘膜の特徴は変形する点にあります。

ところが、型取りして作った石膏模型はびくともしません。

粘膜をどれほど上手に型取りしても、やわらかさ、つまり変形の仕方までは再現できませんから、粘膜の歯型取りにはおのずと限界があるのです。

●歯

粘膜と異なり、歯は変形しないので、指で押さえても凹むことはありません。

歯型を取って作った石膏模型も変形しませんから、この点で両者はとてもよく似ています。

したがって、歯の歯型取りは、粘膜のそれと比べると再現性がとても高いというわけです。

〇入れ歯づくりが難しい理由

入れ歯作りが難しい理由を粘膜という点からご説明します。

●粘膜専用に最適化された型取り方法がない

軟組織である粘膜と硬組織である歯では、条件が全く異なるのに、歯型取りの方法は現在ほとんど違いがありません。

見方を変えれば、”歯”に適した歯型取り法で入れ歯用の”粘膜”の型取りをしているのが、現在の入れ歯の歯型取りの実情です。

一見すると、きれいに粘膜の状態が型取りできているように見えても、正確な状態を再現できていないことがほとんどです。

粘膜に適した型取りの方法が開発されていないため、入れ歯作りは最初の段階からして、とても困難な条件を課されているのです。

●粘膜の沈み込みを再現できない

入れ歯作りは、設計を別として歯型取りから入ります。

お口の歯型をとって、お口の状態を石膏模型で再現するというわけです。

先ほどお話しした通り、粘膜は軟組織なので容易に変形します。

ところが、石膏模型は変形しません。

入れ歯を入れると粘膜は沈み込みますが、どれだけ沈み込むか、すなわち沈み込み幅を石膏模型では再現できません。

このため、噛んだときに入れ歯作りの際に予想した以上に入れ歯が粘膜に沈み込むと、入れ歯が痛くなります。

●粘膜の厚みがわからない

足の”弁慶の泣き所”を打ち付けると、とても痛いですよね。

ところが、お尻は少々打っても痛くないです。

この違いは肉の量です。

”弁慶の泣き所”は肉が薄くすぐに骨に力が伝わってしまうため痛くなりやすい、お尻は肉が力を受け止めるから痛くなりにくいというわけです。

入れ歯も同じで、粘膜の厚みがしっかりあれば、比較的痛くなりにくいと考えられます。

ところが、粘膜の厚みはお口の中で均等というわけではありません。

歯型を取ってもどの部分が厚く、どの部分が薄いのかはよくわからないため、実際に使って痛みがでてからでないと粘膜の薄いところが分かりにくいのです。

●粘膜の動く部分がわからない

歯肉のあたりの粘膜は動きがなさそうに見えても、実際は舌の付け根や頬、唇との境など、動くところが何箇所かあります。

入れ歯作りでは、動きのある部分を避けるのが基本なのですが、歯型を取って作った石膏模型では、なかなか分かりにくいです。

こうしたことも、入れ歯作りを難しくする要因のひとつです。

〇まとめ

今回は、入れ歯作りが難しい理由を、お口の粘膜という視点からご説明しました。

入れ歯作りが難しい理由は、

①粘膜専用に最適化された型取り方法がない

②粘膜の沈み込みを再現できない

③粘膜の厚みがわからない

④粘膜の動く部分がわからない

などです。

このため、入れ歯作りでは、専門的な知識が必要であることはもちろんですが、たくさんの治療経験も欠かせません。

当院では、入れ歯の専門知識も、長年にわたる豊富な実績もあります。

入れ歯でお悩みの方は、当院に是非お越しください。