こんにちは
わたしたちの歯並びは、唇と頬が外から押さえる力と、舌が内側から押す力のバランスの上に成立しています。
歯に作用する力のバランスがどちらかに崩れると、歯並びが悪くなる、すなわち歯列不正になります。
このような歯列不正のひとつがすきっ歯です。
すきっ歯という歯並びは、先に挙げた力のバランスが強く関係している歯列不正です。
今回は、すきっ歯と舌の関係性についてお話しします。
〇すきっ歯
まず、すきっ歯についてご説明します。
●すきっ歯について
すきっ歯とは、正しくは”空隙歯列”という名前で呼ばれる歯列不正です。
歯並びの中に隙間があればすべて空隙歯列かというと、そうではありません。
実は、隙間が1カ所だけなら、空隙歯列とは認められないのです。
歯並びに、”2カ所”以上隙間がある状態を、空隙歯列とよんでいます。
●生理的な隙間
歯並びの隙間の全てが歯列不正ではありません。
乳歯の歯並びでは、歯と歯の間に隙間があるのが普通です。
乳歯と次に生えてくる永久歯を比べると、永久歯の方が大きいので、乳歯の周囲に隙間を作ることで、永久歯が生えるスペースを確保しているからです。
もし乳歯の歯並びに隙間があったとしても、それは生理的な隙間、すなわち正常な隙間なので治療する必要はありません。
●すきっ歯は拡大する
永久歯の歯並びに2カ所以上の隙間がある状態が空隙歯列です。
永久歯に生え変わった後は、歯並びは変わらないとイメージされがちですが、歯と歯の間の隙間が広がったり、隙間がなかったところに新たに隙間が生じたりすることがあります。
〇すきっ歯拡大の原因は舌
歯と歯の間の隙間が広がったり、増えたりする原因は、舌です。
舌が、歯並びの隙間に影響する理由は2つあります。
●舌の大きさ
遺伝的に、生まれつき舌が大きい方がいます。
これを巨舌症といいます。
舌は、歯並びの内側にありますが、巨舌症だからといって歯並びの内側の容積が大きくなるわけではありません。
舌が日常的に歯並びを内側から押し広げようとするので、歯並びが外に向かって広がります。
すると、歯と歯の間が広がり、隙間が生まれ、そして拡大します。
●舌癖
歯並びを悪くするくせを不良習癖といいます。
歯並びを悪くするので不良習癖=悪習癖なのですが、その中でも特に影響が大きいのが、舌にかかわるくせ、舌癖です。
舌癖がすきっ歯など歯並びを悪くする理由を、次に詳しくお話しします。
〇舌癖と舌圧
舌癖が歯並びを悪くする原因が、舌圧という舌が押す力です。
●正常な舌の位置
舌癖や舌圧を理解するためには、舌の正常な状態を理解しておかなければなりません。
舌は、先端部分が上顎前歯の内側付近の歯肉にあたり、舌の本体部分が上顎にくっついているのが、正常な状態です。
この状態では、舌圧は上顎骨に伝わるので、歯並びが悪くなることはありません。
●歯並びを悪くするのは舌圧
先にお話しした正常な位置にない舌を、舌癖とよんでいます。
舌癖の中でも多いのが舌の先端が下がって、下顎の前歯の裏側や上顎前歯と下顎前歯の間にあたっているタイプです。
舌の先端が下がると、舌圧が上顎と下顎の前歯に伝わります。
舌圧を受けた前歯は、前に向かって押されます。
舌圧を受け続けた歯並びは、やがて広がり、歯と歯の間に隙間が生まれます。
●口呼吸でも生じる舌圧
鼻で呼吸するのが正しい呼吸法です。
ところが、鼻炎や蓄膿症などで鼻が詰まっていると、鼻で呼吸ができないので口で呼吸します。
また、アデノイド肥大症などの喉の病気でも息苦しさから口呼吸となることが多いです。
舌先を上顎前歯の内側の歯肉に当てた状態で息をしようとしてみてください。
舌が邪魔をして息ができないはずです。
しかし、舌先を下げると、途端に息が通りやすくなります。
口で呼吸をするなら、どうしても舌先を下げる、舌先を下顎の前歯の裏側に当てざるを得ないのです。
こうして、口呼吸を続けていると、歯並びは舌圧を受けて隙間が生まれ、すきっ歯になります。
〇すきっ歯の矯正治療と舌癖
すきっ歯も矯正治療で解消できますが、そこに立ちはだかるのが舌癖です。
●歯の移動と舌癖
矯正治療では、矯正装置の働きで歯を少しずつ移動させて歯並びを整えていきます。
すきっ歯の治療も同じで、内側に向かう矯正力を加えて歯並びを小さくすることで、歯と歯の間の隙間を無くします。
このとき、歯を理想的な位置に向かって移動させようと矯正力を加えても、舌癖が残ったままでは、舌圧が歯に違う方向の力を加えてしまいます。
そうです、舌癖があると、動かしたい方向と異なる方向に向かう力が歯に加わってしまうのです。
本来の矯正力が発揮できなくなり、歯が動かしにくくなるため、矯正治療の効率が下がります。
そして、治療期間もとても長くなってしまうかもしれません。
●後戻りと舌癖
矯正治療を終えたのち、きれいになった歯並びが再び悪くなることを”後戻り”といいます。
後戻りを防ぐために、一定期間、保定装置やリテーナーと呼ばれる矯正装置を使います。
すきっ歯の治療の後も同じです。
しかし、舌癖が残ったままだと、保定装置を外した途端、舌圧を受けて再び歯並びが広がり、すきっ歯に戻ってしまいます。
もしかしたら、保定装置を一生使い続けなくてはならなくなるかもしれません。
したがって、理想的には矯正治療の前に、少なくとも矯正治療を終えるまでには、舌癖を解消しておかなければなりません。
〇まとめ
今回は、すきっ歯と舌の関係についてお話ししました。
舌の位置異常を舌癖と言い、舌癖は舌圧により歯並びを悪くします。
すきっ歯も同じで、舌圧の影響を強く受ける歯列不正です。
舌癖を認めるすきっ歯の治療では、歯を移動させるだけでなく、舌癖の解消も同時に進めていかなければ、矯正治療の成功はおぼつかないです。
隙間の多い歯並びなど、歯列不正でお悩みの方は、当院でぜひご相談ください。