こんにちは
先日、歯肉が腫れて痛くなったので他の歯科医院で歯根の治療を受けているけれどなかなか症状が良くならないという方が来られました。
確かに歯根の治療を繰り返しても症状がよくならない場合、とても不安にお感じになることでしょう。
ですが、実際のところ、歯根に原因があり歯肉に腫れや痛みが出てきたような方の治療はとても難しいのが実情です。
今回は、歯根の治療を続けても歯肉の腫れや痛みがなかなかひかない理由やその場合の対処法などについて解説します。
〇感染根管治療について
歯肉の腫れや痛みに対して、どうして歯根の治療をするのか不思議に思う方もいらっしゃることでしょう。
●歯肉の腫れや痛みを引き起こす仕組み
歯肉に腫れや痛みをもたらす原因はいろいろあります。
そのひとつが、感染根管です。
健康な歯の内部には歯髄があります。
歯髄というより歯の神経といった方がわかりやすいかもしれません。
虫歯になると、歯が溶かされて歯の内部に虫歯菌などの細菌が入り込みます。
歯髄に細菌が入り込むと、歯髄が細菌感染をきたします。
歯髄全体に細菌感染が広がると、根尖(歯根の先)から細菌が歯の周囲に出ていきます。
この結果、組織は炎症を起こし、歯根の先に膿がたまります。
これを根尖病巣といいます。
根尖病巣が小さいうちは無症状のことが多いのですが、炎症が大きくなるにつれて歯肉に腫れや痛みを引き起こすようになります。
●歯肉の腫れや痛みの治療法
歯肉に腫れや痛みをもたらした歯根の治療法を感染根管治療と言います。
歯髄が入っている空間を根管と言います。
感染根管治療とは、根管から細菌に感染した歯髄組織や細菌が入り込んだ根管表面部分を取り除き、根管内部を無菌化することで、根尖病巣を治す治療法です。
ですから、感染根管治療とは、歯そのものを治す治療法というよりも、根管の無菌化を通して根尖部の炎症を解消し、病巣を取り除く治療といった方がいいかもしれません。
〇感染根管治療が難しい理由
感染根管治療が難しい理由についてお話しします。
●根管内部に免疫力が作用しない
人の体には、有害な細菌やウイルスを排除する免疫力が備わっています。
免疫力の元となるさまざまな細胞たちは、血液中に含まれており、血管によって体の隅々まで運ばれます。
歯の歯髄を取り除くと、血管も一緒に取り除かれてしまうため、根管は、体の中で唯一免疫力が作用しない空間となってしまいます。
このため、感染根管内の治療は薬の消毒効果だけに頼るほかなく、治療の予後が予想しにくい理由のひとつとなっています。
●根管の無菌化自体が難しい
根管治療の目的は、根管の無菌化です。
根管の無菌化は、『根管内部の細菌が入り込んだ部分を物理的に取り除く』『根管内に消毒薬を浸透させる』などによって行われます。
ところが、根管の構造はかなり複雑で、しかも先に進めば進むほど狭くなっています。
リーマーやファイルという針のような細い器具を入れて治療を進めていくのですが、なかなか困難です。
このため、根管の無菌化そのものがとても難しいのが実情です。
●根管を無菌化できたかの判断が難しい
根管の無菌化が目標だとして、では無菌化できたかどうかをどのようにして判断するのかという問題もあります。
一見きれいに見える根管でも、相手は目に見えない細菌ですから無菌とは限りません。
根管内に顕微鏡を持ち込むこともできません。
実は昔、根管内の細菌を採取してプレパラート上で培養する試験法がありましたが、
どうも精度的に信用できず現在ではすたれてしまいました。
結局、
現時点では、痛みや腫れなどの自覚症状や膿の有無などによって判断していますが、これもまた、無菌化できていないのに腫れや痛みがないことはよくあります。
ちまり精度的にはかなり低いと言わざる負えません。
というわけで、無菌化できたかどうかの判断も難しいのです。
●治療期間中でも細菌が入り込む
根管治療は1日で終わりません。
何度も何度も繰り返し行われるのですが、根管治療の期間中は仮封材というものを使って、根管の入り口に蓋をします。
食べ物や飲み物、唾液、細菌などが入り込むのを防ぐためです。
ところが、仮封材は、あくまでも”仮”に”封”鎖するための”材”料ですから、治療時に取り外しやすく作られています。
このため、日常生活においてすり減ったり、外れたりすることがしばしば起こります。
根管治療で根管の無菌化を図っても、仮封材の隙間から細菌が入り込む可能性を完全に排除することはできません。
●根尖の炎症の除去の判断が難しい
感染根管治療で根管内を無菌化することで細菌の供給路を経つと、免疫力の働きで根尖部の病巣は解消されます。
ただ、根尖部の病巣が治ったとして、骨が再生するには数ヶ月という月日がかかります。
もちろん、根尖部の病巣のサイズが大きければ大きいほど時間もかかります。
この間ずっと感染根管治療を続けるわけにはいきません。
結果、症状から根尖病巣が治ったと判断できれば、骨の再生を待つことなく、感染根管治療を終えることになります。
その後何か月たっても病巣が小さくならないようですと、それは治ったといえないわけです。
でも、それが分かるのは何か月かたった後なわけです。
このように、根尖部の病巣が治ったかどうかを判断することも大変難しいです。
●微細な根管への対処が難しい
歯の根には、レントゲンに写っている太い根管のほかにレントゲン写真には写らない顕微鏡でみないとわからないようなとても細い根管が無数にあることがわかっています。
見えないような細い根管であっても、十分歯根の周囲の炎症の原因になり得ます。
ところが、現在の根管治療の方法では、細い根管を見つけ出すことも難しいですし、たとえ見つけられたとしても細い根管を無菌化する方法もありません。
見えないような根管の存在も、感染根管治療の予後を悪くする原因のひとつです。
●隙間がゼロにならない
無菌化された根管は、細菌繁殖の温床となるのを防ぐために、根管充填材という人工材料で隙間なく埋めます。
埋めた後は、根管充填材が隙間なく入っているかをレントゲン写真で確認します。
レントゲン写真上では隙間なく埋められているように見えても細菌レベルでは隙間が残っている可能性は否定できません。
この隙間で細菌が繁殖すると、再び歯根の先に病巣を作ることになってしまいます。
たとえ根管の無菌化が成し遂げられたとしても、根管の内部を緊密に埋めることも難しいわけで、これも感染根管治療の効果が現れにくい理由のひとつです。
〇感染根管治療の効果が出ない時の治療法
感染根管治療で効果が得られにくい場合は、他の選択肢を考えなければなりません。
●抜歯
感染根管治療で経過が良くない場合、抜歯が選ばれることも珍しくありません。
抜歯してしまうと、歯がなくなってしまいますが、細菌の進入経路も同時になくなりますので、根尖部の病巣も自然と解消されます。
●ヘミセクション
大臼歯とよばれる前から数えて6番目以降の奥歯は、歯根の数が複数あります。
歯根の全てが悪いわけでなく、そのうちの1本だけが悪いときに、悪い歯根だけを取り除く処置をヘミセクションと呼んでいます。
歯の形が不自然になるので、術後の歯磨きが難しくなるのですが、歯を一部でも残せるのが利点の処置です。
●歯根端切除術
歯根端切除術とは、歯根の先端部分を切断し、根尖部の病巣と一緒に摘出する外科手術です。
切断された歯根の先端部分はセメントで塞ぎますので、根管から細菌が歯の外に出ていくことはできなくなります。
歯根端切除術は、優れた外科治療ですが、歯根が短いと処置後に歯が不安定になってしまう、大臼歯の歯根端切除術は難しいなどの難点もあります。
〇まとめ
今回は、感染根管治療が難しい理由を中心に解説しました。
感染根管治療は、
①根管内部に免疫力が作用しない
②根管の無菌化自体が難しい
③根管の無菌化したかの判断が難しい
④治療期間中にも細菌が入り込む
⑤根尖の炎症の除去の判断が難しい
⑥微細な根管への対処が難しい
⑦埋めても隙間がゼロにならない
などの理由からなかなか難しく、すぐに腫れや痛みを引かせられないことが多いのが実情です。
感染根管治療を長期にわたって続けても効果が得られにくい場合は、抜歯した方がよいことも多いです。
当院では、難治性の感染根管治療に長年取り組んでいます。
他の歯科医院で改善が難しいという方も多く来院されています。
もし、歯肉の腫れや痛みが改善しにくくてお悩みの方は、ぜひ当院で一度ご相談ください。