インプラント治療のネックとして、他の補綴治療と比較して治療期間が長いことが挙げられます。 初期固定が得られる場合であれば、即時荷重などの方法がありますが、必ずしもそうならないこともあります。 オッセオインテグレーションや初期固定などの基本用語の解説し、治療期間がかかることが多いことを理解していただきたくおもいます。 そして治療への協力度を上げたいと思っております。
〇インプラント治療の方法 荷重時期の違いについて
●荷重時期の違いについて
インプラント体の埋入手術後に被せ物やアタッチメントと呼ばれる上物をいつ頃いれるのかという疑問があると思います。 インプラント治療における欠点として治療期間が長いことが挙げられます。 インプラント体を骨に埋め込んだ後にインプラント体と骨が結合する時間を待つ場合が多いためです。昨今ではインプラント体の材料や表面性状の向上により待機時間を短縮できる場合やすぐに上物を入れる治療も出てきています。 インプラント体を入れた後に被せ物などをいれて向かい合わせの歯と咬ませるなどして力をかけることを『荷重』と言います。 インプラント治療における荷重にはその時期により大きく
①待時荷重(通常荷重)
②早期荷重
③即時荷重
と分類されます。それぞれを確認しましょう。
●待時荷重(通常荷重)
インプラント体の埋入後2ヶ月以上経過した後に暫間的に仮歯などを装着して噛み合わせを付与することを指します。 さらに荷重までに時間をかける場合(遅延荷重)では、下顎で3ヶ月、上顎で6ヶ月以上待つ場合もあります。
●早期荷重
インプラント体の埋入後1週から2ヶ月までの間に暫間的に仮歯などを装着して噛み合わせを付与することを指します。
●即時荷重
インプラント体の埋入時またはその1週以内に暫間的に仮歯などを装着して噛み合わせを付与することを指します。
以上のように荷重の時期により場合が分かれます。 どのような場合にどの荷重にさせるかはインプラント体埋入手術時の骨や歯茎の状況、全身状況などによって選択されます。 荷重時に考慮される因子について次に確認していきます。
〇インプラント体と骨の結合様式
●オッセオインテグレーションとは
インプラント体と骨との結合は光学顕微鏡レベルで骨とインプラント体表面が軟組織を介在せずに接触維持する状態です。 これを『オッセオインテグレーション』と言います。 インプラント体の材料の多くにチタンが使用されており、それが骨と結合することを発見したのは1950年代です。 そこから今日に至るまで様々な材料の改善、手術方法の改良によりインプラント手術における早期のオッセオインテグレーションの獲得を目指しています。 オッセオインテグレーションが獲得出来ないと荷重後にトラブルを招きます。
●初期固定と2次固定
オッセオインテグレーションはインプラント手術直後に起きるものではありません。 少なくとも2から3ヶ月の時間を要します。 手術直後の安定はインプラント体と周囲骨組織との機械的な維持に依存します。 これを『初期固定』といいます。 木の板にネジを回し入れて抜けない状態をイメージすると分かりやすいかもしれません。 ネジの溝がしっかりと木の板に入り込んでいる状態です。 初期固定は即時荷重や早期荷重が可能かどうかが大きな判断基準の1つになります。 初期固定がしっかりと得られる状況であれば、即時荷重をする選択肢がでてきます。 初期固定に対して2次固定という言葉があります。これは先に述べたオッセオインテグレーションとほぼ同義語です。 2次固定は埋入したインプラント周囲に新しい骨が作られ、それがインプラント体と結合することによる安定を指します。
〇即時荷重ができる場合、できない場合
●即時荷重ができる条件
即時荷重ができる条件として十分な初期固定が得られる場合を挙げました。 しかし、実際のお口の中では様々な要因が絡みます。 骨の硬さ、厚みや量、全身状態と既往歴、口腔の清掃状態、咬合状態、インプラント体の埋入本数、サイズなどが挙げられます。 このように様々な条件があるため、リスクが少なく条件が良い場合には即時荷重など行うことがあります。 しかし、どちらにしても難易度が高く術者の熟練度が求められます。 条件があまり良くない場合には即時荷重や早期荷重を行わず、通常荷重や待時荷重にしておく方が失敗が少ないと思われます。 オッセオインテグレーション前に荷重がかかると微小な揺れにより隙間が生じ、細菌が侵入してしまう場合や炎症を起こしてしまう可能性が出てきてしまいます。 こういった点から安全をとって通常荷重を行う場合が多いと思われます。
●即時荷重ができる条件 検査法
初期固定が得られても弱い場合において、いつ荷重をかけても良いかというのは調べる方法があります。 例えば、インプラント埋入時にどの程度の力で骨にインプラント体が入るか(トルク)は一つの指標となります。 インプラント体のメーカーにより異なりますが、35N•cm程度が一つの指標となります。 その他に共振周波数を測定することによる検査もあります。こちらも数値化されており、一定の数値以上であれば即時荷重が可能であるという1つの指標として用いられています。
〇まとめ
インプラント治療における荷重時期の違いについて確認してきました。 可能であれば早めに被せ物を入れて終了させたいという気持ちがあるかもしれません。 しかし、状態が良くないにも関わらず荷重をかけてしまっては、インプラント体が動いてしまい最悪外れてしまうことも考えられます。 リスクがあることは知っておきましょう。 そのため多くの場合、2次固定が得られる可能性が高い2から3ヶ月後に荷重をかけることが多いです。 状況があまり芳しくない場合にはさらに待つこともあります。 虫歯は待っても良くなりませんが、インプラント治療においては待つことも重要になることがあります。 待つことにより治療がうまくいく要素になり得るということを知っておきましょう。