先日、「他の歯科医院ですべての虫歯治療をプラスチックでしてほしいと伝えたところ、それはできないと断られた」という方が来院されました。

歯科治療で使うプラスチック材料といえば、コンポジットレジンというタイプになります。

おそらく、これを使った虫歯治療をご希望だったのではないかと思いますが、当院に限らず、どの歯科医院でも残念ながらすべての虫歯をコンポジットレジンで治すことはできません。

今回は、虫歯治療の種類とコンポジットレジンだけで虫歯治療ができない理由についてお話しします。

〇コンポジットレジンについて

まず、コンポジットレジンという歯科材料についてご説明します。

●コンポジットレジンとは

コンポジットレジンとは、ベースレジン(マトリックスレジンともいいます)に、フィラーという粉末成分を組み合わせて作られたプラスチック材料です。

複数の素材を組み合わせていることから、”コンポジット(複合)”と名付けられています。

●コンポジットレジンのメリット

①保険診療の適応

保険診療では、使っていい歯科材料があらかじめ決められています。

セラミックが保険診療の対象外となっているのは、保険診療で使うことが認められていないからです。

コンポジットレジンは保険診療で使うことが認められているので、治療費を低く抑えられます。

②歯の色に近い

保険診療の歯科材料は、機能性重視で見た目は重視されていません。

典型例が銀歯ですね。

ところがコンポジットレジンは、歯の色に近い白色なので他の歯科材料と比べて目立ちにくいのが利点です。

③金属アレルギーでも大丈夫

コンポジットレジンは金属材料ではないので、金属アレルギーのある方も心配なく使っていただけます。

●コンポジットレジンのデメリット

①強度が弱い

コンポジットレジンは、プラスチックなので、金属材料と比べると強度が弱いです。

上下の歯が当たる部分に使うと、噛み合わせの力に負けて欠けたり取れたりすることも珍しくありません。

②変色する

詰めた当初は歯の色に似ていても、時間の経過とともに少しずつ黄色く変色していきます。

③人工物っぽい色合い

セラミックは光沢感や透明感が歯にそっくりなので自然な白さになりますが、コンポジットレジンはツヤや透明感がないので、人工物っぽい感じが拭えません。

④プラークがつきやすい

コンポジットレジンは、時間が経つと少しずつ表面からフィラーが取れていき、次第にザラザラとしてきます。

表面に現れた凸凹部分はプラークが付着する温床となるため、プラークコントロールをしっかりしておかなければ、虫歯や歯周病のリスクが高まります。

〇虫歯治療の種類

現在、主流となっている虫歯治療は、ダイレクトボンディング・インレー・クラウンの3種類です。

●ダイレクトボンディング

ダイレクトボンディングは、虫歯を削ったら、すぐにコンポジットレジンを使って穴を埋める治療です。

”コンポジットレジン”を”詰める(充填する)”治療なので、レジン充填ともいいます。

1日で治療が終わるのが利点ですが、大きな虫歯治療には向いていません。

●インレー

インレーは、歯の溝や窪み部分にできた虫歯の治療に用いられる小ぶりの詰め物です。

ダイレクトボンディングでは対応できないサイズの虫歯治療に用いられます。

どちらのタイプも歯の形を整えたのち、歯型をとって、後日、歯につけます。

保険診療では、金属製のインレーに加え、コンポジットレジンを使ったレジンインレーも使われています。

こちらも大きい虫歯の治療には向いていません。

●クラウン

クラウンは被せ物です。

歯冠の大部分がダメになってしまった歯や、歯の根にコアという芯を立てた歯、大きなブリッジの支えとなる歯などに用いられます。

保険診療では、金銀パラジウム合金を使った銀歯が長らく主流でしたが、近年ではコンポジットレジン系材料を使ったCAD/CAM冠や、チタニウムを使ったタイプもあります。

〇すべての治療がコンポジットレジンでできない理由

コンポジットレジンだけで虫歯治療ができないのには理由があります。

●ダイレクトボンディングだけですべての虫歯治療ができない理由

ダイレクトボンディング治療だけで虫歯治療ができたら、どんな虫歯治療も1日で終わります。

ところが、ダイレクトボンディング治療は、コンポジットレジンの接着力だけで歯にくっついています。

もし、コンポジットレジンの体積と接着面積のバランスが崩れてしまうと、簡単に外れてしまいます。

例えば、根だけになったような虫歯の治療で、歯冠部分をダイレクトボンディングで作っても保ちません。

また、強度も高くないので、簡単に壊れてしまいます。

ダイレクトボンディングは、あくまでも歯の表面的な小さな虫歯以外には使いづらい治療です。

●金属インレーが多い理由

インレーが使われる場所のほとんどは、奥歯です。

しかも、噛み合わせの力が加わるところが多いです。

このようなところにレジンインレーを使うと、多くの場合噛み合わせの力に負けて割れたり欠けたりします。

このため、目立ってしまうのですが、金属インレーがよく使われるのです。

●金属製クラウンが今も選ばれる理由

保険診療のクラウンでコンポジットレジンを使ったタイプの代表は、CAD/CAM冠です。

近年、CAD/CAM冠の割合が増えていますが、すべてのクラウンをCAD/CAM冠にできないのには理由があります。

①適応範囲の制限

現在、CAD/CAM冠を使っていいのは、小臼歯という小ぶりの奥歯と前歯だけです。

第一大臼歯にも使えることがありますが条件がありますし、第二大臼歯に至っては金属アレルギーがある場合に限られています。

②部分入れ歯の金具には耐えられない

部分入れ歯は、歯にクラスプという金具をかけて安定させますが、CAD/CAM冠はクラスプに耐えられません。

外れやすくなるだけでなく、割れたり欠けたりするリスクがあります。

③食いしばりがあると割れやすい

食いしばりや歯ぎしりなど噛み合わせの癖があると、クラウンに日常的に強い力が加わるようになります。

本来なら、食事のときに当たるだけですから、CAD/CAM冠はそれくらいの力には十分耐えられるのですが、噛み合わせの癖があると、常に力が加わり続けるため、耐えられなくなります。

噛み合わせのある方、特に歯が広くすり減っているような方は、CAD/CAM冠での治療は難しいです。

〇まとめ

今回は、どうしてすべての歯の治療をコンポジットレジン(プラスチック)でできないのか、という点についてお話ししました。

コンポジットレジンは、保険診療の歯科材料としては歯の色に近く、目立ちにくいのが利点ですが、強度の点で劣るのが難点です。

無理に詰め物や被せ物の素材にコンポジットレジンを使うと、詰め物や被せ物が割れたり外れたりするだけでなく、場合によっては歯そのものが割れてしまう可能性さえあります。

現行の保険診療では、被せ物が壊れてもすぐに新しいもので置き換えることができない仕組みになっています。

ですが、被せ物をコンポジットレジンにしない理由はそれだけではありません。

私たち歯科医師は、お口の健康と病気の治療に携わるプロフェッショナルです。

責任ある治療を提供するという視点に立てば、将来的に歯にダメージを与える可能性が予想される治療は絶対避けるべきと考えています。

虫歯治療では、適切な材料を適切に使うことがとても大切なのです。