こんにちは

歯並びのどの部分が気になるのか、人それぞれ異なるものです。

中には出っ歯の前歯2本だけ、前歯の間にある隙間だけ、というように気になるところが限られていて、そこだけを部分的に矯正してほしいという方がいらっしゃいます。

確かに、気になるところが前歯2本だけなら、歯並び全体を整えるのはオーバーに感じるのも無理ない話です。

しかし、たとえ前歯2本だけ気になるからと言って、前歯部だけを部分的に矯正する、すなわち部分矯正で治療できるかというと、必ずしもそうとは限りません。

部分矯正には限界があるのです。

そこで今回は、部分矯正でできることの限界についてご説明します。

〇部分矯正について

まず、部分矯正についてお話しします。

●部分矯正とは

実は、部分矯正という矯正治療があるわけではありません。

矯正治療の基本は、前歯だけでなく、奥歯の噛み合わせも含め、歯並び全体の調和をとることです。

したがって、矯正治療ではすべての歯並びを整えます。

人の希望はさまざまですから、全体ではなく前歯部の歯並びだけを治したいというニーズもあります。

それに応えるため、気になるところだけを整えようというのが部分矯正です。

歯並び全体を整える本来の矯正治療は、部分矯正に対し全体矯正と呼ばれます。

●部分矯正は実は難しい

歯並び全体を整えるよりも部分的に整えるほうが簡単そうに見えますが、実はそうではありません。

部分矯正をご希望になる方のほとんどは、上顎の前歯の歯並びがだけが気になっているという方です。

ヒトの歯並びは、前歯の位置も、奥歯の噛み合わせも、すべてひとつのバランスの上に成り立っています。

奥歯の噛み合わせは問題なく、前歯の位置だけがおかしいというようなことはまずありません。

前歯の位置がおかしい方は、奥歯の噛み合わせにも問題があるということが大半で、単に上顎の前歯だけ気になり、奥歯の噛み合わせに気がついていないだけなのです。

このため、上顎の前歯だけ部分的に治そうとすると、どこかにしわ寄せが来ることになります。

「きちんと診断してから」の判断にはなりますが、多くの場合部分矯正での治療はたいへん難しいです。

〇部分矯正でスペースを確保する方法

部分矯正であっても、歯を並べるスペースを確保しなくてはなりません。

部分矯正で歯を収めるスペースを得たいときに行われる処置が、IPRです。

●IPRとは

IPRとは、InterProximal enamel Reductionという言葉を略した処置で、歯の両サイドを少しずつ削ってスペースを確保する方法です。

歯を削るのは、歯の表面を覆っているエナメル質のところだけほんの少し削るだけですから、歯がしみて痛くなる、歯の形がおかしくなるといった問題はほとんど起こりません。

●IPRの範囲

IPRで歯を削るといっても、エナメル質ならどれだけ削ってもいいというわけではありません。

個人差はありますが、日本人の場合、0.25mmが限界と言われています。

したがって、歯の両側を0.25mmずつ削るとして、1本あたり0.5mmくらいまでのスペース確保が限界となります。

仮に、前歯部6本を部分矯正で整えるとします。

1本あたり、0.5mm削ってスペースを確保するとすると、0.5×6=3mmのスペースが得られる計算です。

見方を変えると、3mm以内のスペースで前歯が収まらないとなると部分矯正では難しいという判断になります。

〇部分矯正の限界がある理由

部分矯正に限界があるのはどうしてなのでしょうか。

●IPRの限界

前歯の歯列不正がIPRで対応できない場合、歯を抜歯してスペースを確保するほかありません。

前歯を抜歯すると、外見に大きく影響しますし、大臼歯という奥歯を抜歯すると噛み合わせの力が下がってしまいます。

多くの場合、前から数えて4番目の第一小臼歯、もしくはその後ろの第二小臼歯が選ばれます。

歯1本抜歯するわけですから、その前後の歯並び、噛み合わせている歯並びも整える必要が生まれます。

このため、IPRで対応できないような歯列不正は、歯並び全体を整えなければならなくなります。

●歯並び全体のバランスからの限界

例えば、前歯の真ん中の隙間が気になるとします。

前歯の真ん中の隙間を正中離開といい、これも立派な歯列不正です。

正中離開は、部分矯正で前歯を真ん中に寄せれば、解消できます。

ですが、真ん中に前歯を寄せれば、反対側に隙間ができます。

この隙間を埋めるためにその隣の歯を寄せて・・・となれば、結局歯並びを広い範囲で動かさなくてはならなくなります。

また、出っ歯の前歯を内側に入れ込むと、今度は下の前歯へのあたりが強くなります。

下の前歯の位置も調整しなければならず、そのためには下の歯をさらに奥まで動かす必要が生まれます。

そうすると、噛み合わせている上の歯も動かさなくてはならなくなります。

部分矯正で簡単に治せそうに思われても、歯並びはバランスの上に成り立っているので、どこかを動かすと、違うところにしわ寄せが来るので、結局全体を整えなければならないのです。

〇まとめ

今回は、部分矯正の限界についてお話ししました。

歯並びがきれいになるかどうかは、歯が生えるスペース、すなわち顎のサイズに大きな影響を受けます。

顎のサイズと歯の大きさのバランスが取れていればきれいな歯並びになりますが、そうでない場合は、歯列不正になってしまいます。

前歯の歯列不正も同じで、前歯部の歯並びが乱れているのはバランスが取れていないからで、きれいに整えるためには、歯並び全体のバランスを考えなければなりません。

部分矯正で前歯を整えられるのは、わずかに歯並びのバランスが取れていない歯列不正くらいに限られます。

こうしたことから部分矯正で歯並びを整えられる方はかなり限定的です。

無理に部分矯正をすると、どこかにしわ寄せがきます。

矯正治療にあたっては、可否の判断が、治療を成功させるために欠かせません。

当院は、豊富な矯正治療の専門知識に加え、多くの治療経験を持つ歯科医院です。

歯並び全体を整えたいと希望なさる方はもちろん、前歯部だけを部分矯正で治療できるか知りたい方もぜひ当院でご相談ください。