こんにちは

別の歯科医院で、「抜歯した後、入れ歯を作ったけど、入れ歯を作って終わりだと思っていたところ、調整に何回も通わなくてはならなくなった」という方が来院されました。

確かに、入れ歯が出来上がったらそれで終わりと思ってしまうのも無理ありません。

しかし、抜歯した後に作る入れ歯は、完成した後も何度も調整が欠かせないのが実情です。

そこで今回は、歯を抜いて間もない時期に入れ歯を作ることの難しさについて解説します。

〇歯を抜いた後の治り方

抜歯してできた穴は、どのようなプロセスで塞がっていくのかをご説明します。

●①抜歯当日

抜歯した穴から出血しています。

抜歯後にガーゼを噛んでいただくのは、出血をおさえるためです。

●②抜歯の翌日

お口の中は、唾液で潤っているので、血液が完全に固まることはなく、ドロッとした餅状に固まります。

これを血餅(けっぺい)とよんでいます。

抜歯の翌日からは、血餅が抜歯してできた穴を満たしています。

●③抜歯から4日ほど

抜歯してから4日ほど経つと、抜歯した穴の縁から、歯肉の再生が始まります。

●④抜歯から約1週間

抜歯してから、1週間程度経つと、血餅が肉芽組織に変わります。

肉芽組織とは、傷が治っていく過程で作られる組織で、抜歯後に再生する歯肉や骨の土台となります。

ただし、この時期の肉芽組織はまだ弱く、刺激を受けると出血しやすい傾向があります。

●⑤抜歯してから約3週間

抜歯してから、3週間ほど経つと、抜歯した穴を塞いでいた肉芽組織が線維組織に変わります。

線維組織は、肉芽組織よりしっかりした組織で、線維組織が抜歯した穴を塞ぐようになると、抜歯したところは、かなり安定します。

●⑥抜歯してから4~6週間

抜歯してから、1ヶ月ほどが経過すると、線維組織によって塞がれていたところに、骨が再生するための足場である仮骨が作られ始めます。

この時期になると、抜歯した穴は、通常歯肉で完全に覆われます。

●⑦抜歯してから6~12ヵ月

抜歯した穴に形成された仮骨が、徐々に他と同じような骨に変わっていき、レントゲン写真で撮影しても、抜歯した穴がわからないほどになります。

このように治っていきますので、抜歯したところが完全に治るには数ヶ月から1年ほどの長い時間が必要なのです。

〇骨が完全に治るのを待っていると

抜歯したところが、骨がきれいに再生するのをまっているとどういうことが起こるのでしょうか。

●歯並びが変わる

抜歯したところの隣に歯が残っていると、抜歯した隙間を埋めるように歯が傾いてきます。

隣の歯が傾いてくると、隣の歯とその隣の歯との間に隙間ができて、やはり隣の歯が傾いてきます。

そして、噛み合わせている歯があると、その歯が伸びてきます。

こうして、抜歯したところと関係のない歯並びが少しずつ変わり、本来の噛み合わせがおかしくなってきます。

●見た目が悪い

歯が抜けたままになっていると、そこの部分だけが暗くなるので、見た目も悪くなってしまいます。

●発音が不明瞭になる

声を出すとき、抜歯した隙間から空気が抜けるので、発音が不明瞭になります。

これは、下顎よりも上顎で起こりやすいです。

〇入れ歯を入れるタイミングが早すぎると

もし、抜歯した後、入れ歯を作るタイミングが早いとどうなるのでしょうか。

●腫れた歯肉に当たる

抜歯した後、抜歯したところを中心に歯肉が腫れます。

腫れた歯肉に入れ歯が当たるわけですから、痛くなって入れ歯が入れられなくなります。

●食べ物が入り込む

抜歯した後、歯肉の腫れが落ち着く頃、まだ抜歯したところの歯肉にくぼみが残っています。

くぼみはしばらくすると歯肉で覆われて自然になくなります。

したがって、くぼみに密着するように入れ歯を作ると、やがて盛り上がってきた歯肉に入れ歯が強く当たるようになるため、痛みが出る原因になってしまいます。

そこで、くぼみに密着しないように余裕を持たせて入れ歯を作りますから、食べ物が入り込みやすくなります。

●骨の出っ張が当たる

抜歯した後、抜歯したところに骨の出っ張りが残ることがあります。

骨の出っぱりは、隣に歯が残っていない場合や、何本か同時に抜歯した場合などに生じやすいです。

時間が経つと自然に消えていくことが多いですが、それまでの間、出っぱり部分の歯肉は痛みに敏感になります。

その上に入れ歯を入れることになるので、入れ歯が痛くなる原因になります。

〇入れ歯治療で完成後の調整が大切な理由

抜歯した後に作った入れ歯で、完成後に調整が欠かせない理由も、実は先ほど説明した抜歯後の治りなどに関係があります。

●抜歯後の治りを待てない

さすがに抜歯したところが完全に治るのを待って、数ヶ月もそのまま過ごすというわけにはいきません。

完全に治るのを待っていたら、歯並びが変わってしまい、ひどい場合入れ歯を入れることすらできなくなることもあるからです。

そこで、多くの場合、抜歯してから1ヶ月ほどで入れ歯作りに移ります。

この時期、抜歯したところはかなり覆われてかなり治ったようにみえますが、その他のところと比べると、刺激に敏感です。

このため、入れ歯を削るなどの調整が必要になります。

●歯肉や骨の形が変わる

抜歯後の完全な治りを待たないで入れ歯作りに入るわけですから、治りが進むにつれて、歯肉だけでなく、歯肉の内側の骨の形も変わります。

歯肉や骨の形の変化に合わせるように、入れ歯も形を整えていかなければなりません。

これも、抜歯後に入れ歯の調整が欠かせない理由のひとつです。

〇まとめ

今回は、抜歯した後に作る入れ歯の治療が難しい理由について、抜歯後の治り方を含めて解説しました。

抜歯後間もない時期の入れ歯治療が難しい理由は、

①抜歯したまま時間が過ぎると歯並びが変化してしまうので、完全に治るのを待てない

②入れ歯ができた時点では抜歯したところが落ち着ききっていない

③歯肉の形が変わる

④骨の形も変わる

などです。

このため、入れ歯の裏面が抜歯したところに完全にフィットせず、適宜、入れ歯を削ったり盛ったりして、合うように調整しなくてはならないのです。

場合によっては1年間にわたって時々調整をする場合もあります。

抜歯後の入れ歯の作成はとても難しく、入れ歯に関する専門知識だけでなく、口腔外科の専門知識も欠かせません。

当院は、入れ歯や外科系の専門知識に加え、治療経験も豊富です。

もし、抜歯後の入れ歯治療がうまく進んでいないという方は、当院でぜひご相談ください。