歯ぐきが腫れた。というと歯周病だと思われる方が多いと思います。
歯周病は日本人が歯を失う原因の第一位で、50歳以上の方の半数以上が罹患しているという、非常に頻度の高い病気です。
歯周病の主な原因は、お口の中の細菌の塊であるプラークです。プラークが原因で歯ぐきに炎症が起こり、それにより歯を支える骨が溶かされていきます。
しかし歯周病に加えて、普段飲んでいるお薬が原因で歯肉が大きく腫れる場合があるのです。
飲んでいるお薬が原因で歯肉が腫れることを、薬物性歯肉増殖症と言います。
今回は薬物性歯肉増殖症とはどのような病気なのか、どのような薬が原因となるのか。 そして、その治療法についてお伝えします
〇薬物性歯肉増殖症とは
薬物性歯肉増殖症は、薬の影響で歯肉の上皮の下にある線維性組織を中心に増殖することで歯肉が腫れる病気です。 歯周病の炎症によって腫れた歯肉は柔らかくぶよぶよしていることが多いのに対し、 歯肉増殖症による腫れは硬く弾力があることが多いです。
歯肉の腫れも大きいことが多く、場合によっては歯に覆いかぶさるくらい腫れることもあります。
薬物性歯肉増殖症の初期はあまり痛みが伴わないことが多いですが、 歯肉が腫れることによりプラークコントロールが難しくなり、 その結果として歯周病の炎症も併発することで重症化していきます。
〇歯肉増殖症を引き起こす薬剤
歯肉増殖症を引き起こす薬剤には、大きく分けて3種類が知られています。 いずれも3か月以上の内服で、歯肉増殖症を発生する可能性があるとされています。
●てんかんの薬:フェニトイン
フェニトインは抗てんかん薬として、けいれんを止めるために使われる薬です。
商品名として、アレビアチン、ヒダントールなどがあります。
●高血圧の薬:カルシウム拮抗剤
高血圧や狭心症の薬として使われるカルシウム拮抗薬も歯肉増殖症の原因となります。
カルシウム拮抗薬は日本で高血圧症の治療の第一選択薬として使われており、 超高齢社会で高血圧症の患者が増加している中、服用している方の多い薬剤です。
カルシウム拮抗薬には、ニフェジピン(アダラート)、ベラパミル(ワソラン)、ジルチアゼム(ヘルベッサー)、ニカルジピン(ペルジピン)などがあります。
●免疫抑制剤:シクロスポリン
シクロスポリンは免疫抑制剤として、ベーチェット病やネフローゼ症候群、 再生不良性貧血やアトピー性皮膚炎など、 免疫が関わる病気の治療薬として幅広く用いられています。
〇薬物性歯肉増殖症をおこしやすい方
原因となる薬の服用期間が長く、内服量が多いほど重症化しやすいとされています。
また口腔内の清掃状態が悪いことが、薬による歯肉増殖を悪化させるとされています。 清掃状態が良好で、歯肉に炎症のない口腔内で薬物性歯肉増殖は起こりにくいとされているため、 日頃のプラークコントロールが非常に大切です。
〇薬物性歯肉増殖症の治療方法
薬物性歯肉増殖症の方の治療で大切なことは、 歯周病の患者さんと同じくお口の中のプラークコントロールをしっかりと行うことです。
元々歯肉に炎症がある状態のところに、 薬物による歯肉増殖作用が加わることで歯肉は通常の歯周病患者さんよりも大きく腫れてしまいます。
歯肉が腫れることで歯周ポケットが深くなり、 歯ブラシの毛先が歯周ポケットの中まで届きにくくなります。 そうなると歯ブラシやフロスなどのセルフケアだけでは、 プラークを落とし切ることが難しくなります。ますます腫れが悪化していきます。
歯科医院でご自身のお口に合ったセルフケアの方法をしっかりと教えてもらうとともに、 定期的にクリニックでクリーニングを受けることで、 歯肉の炎症を改善していくことが大切です。。
プラークコントロールをしっかり行い、 炎症が改善されても歯ぐきの腫れが残る場合は、外科的に腫れた歯肉を切除することもあります。
また原因となる薬を処方しているドクターに対診を行い、 他の種類の薬に変更することや減薬が可能かを伺う場合もあります。
しかし治療のため処方されている薬のため、なかなか変更が難しいことも少なくありません。
〇まとめ
超高齢社会の日本では、たくさんの種類の薬を内服している患者さんが増えてきました。
歯肉増殖症の原因となる薬剤のうち、カルシウム拮抗薬は高血圧症や狭心症の治療に用いられ、 内服している患者さんが非常に多い薬です。
今回ご紹介した薬以外にも、薬が原因で口腔乾燥を引き起こしやすい薬や歯科治療をする際に注意をしなくてはいけない薬などがたくさんあります。
初めてクリニックを受診される際はお薬手帳で飲んでいる薬を確認させていただきますが、 長く通っていただいている患者さんの場合、 途中で新しい薬を飲み始めたことは患者さんからお伝えいただかないと把握しきれないことが多いです。
お身体の状況はお口の状態にも大きく影響します!きちんと把握することで、 適切な治療を行うことができます。
体調の変化や、飲んでいるお薬の変化などありましたら是非お声がけください。