虫歯が深くまで進行している、もしくは痛みの症状が強い、などの理由から、神経を抜く治療をしたはずなのに、その後も痛みが続いて不安に思われている方いらっしゃいませんか?
歯科では上記のように神経を抜く治療のことを「抜髄」といい、主に細菌感染によって炎症がある神経を取り除いて消毒を行います。
今回はこの抜髄に伴う症状の経過や、なぜ神経を抜いたにも関わらず痛みが続くのか、といった疑問についてお答えしていこうと思います。
〇歯の炎症の大きさと歯の構造が関係している
抜髄に伴う痛みについては、炎症の程度、またその人の歯の構造などが関係しています。
以下に細かく説明していきます。
●治療前の歯の痛みがかなり強かった
今現在治療を受けているみなさんは、治療前はどのような痛みがあったでしょうか?
冷たいものがしみる、何もしなくてもズキズキする、温かいものもしみる、など症状はさまざまですが、治療前の歯の炎症の程度によって、治療後の経過、症状は変わってきます。
炎症の特徴の一つである「痛み」の中で、自発痛と呼ばれる、何もしなくてもズキズキするという痛みの症状は、歯科の中でも炎症の程度が非常に強い状態といえます。
細菌感染によって炎症が起きると、歯髄と呼ばれる歯の神経線維が過敏になります。
また血管も拡張された状態で血流が増えていることから、ズキンズキンという脈打つような拍動性の痛みがでます。
こういった自発痛が起きるほど強い炎症があった場合、麻酔がききづらくなったり、出血が多かったり、また神経を抜く治療を開始した後も、すぐに痛みがひかず症状が2-3日続いたりすることがあります。
ただ、抗炎症薬や歯の神経の働きを抑えるような薬、根の中に細菌の繁殖を抑える薬を用いたりすることで、日に日に痛みが落ち着いてくることがほとんどです。
●歯の周りにも炎症が起きている
抜髄後でも痛みが続くケースとして、歯の根の周りを取り囲む「歯根膜」と呼ばれる靭帯にも炎症が起きている場合があります。
抜髄では、根尖孔と呼ばれる歯根の末端の穴から、歯の内部に通じている神経を根の先端で切断し、感染した神経を取り除きます。
この先端部分での神経の切断に伴い、一部この歯根膜が炎症を起こすことがあるのです。
症状としては、ものを咬んだ時に痛む咬合痛があげられます。
根管治療を行い炎症がおさまってくると、この咬合痛も軽減してきます。
●神経の一部が残っている
抜髄の治療ステップの中で、感染、炎症を起こしている神経線維が一部残ってしまうことがあり、これを「残髄」といいます。
この残髄によって、抜髄後も痛みが続く場合があります。
ただし、根管治療を進め、感染、炎症を起こしていた神経を完全に取り除いて消毒を行っていくことで症状も次第に落ち着く場合がほとんどです。
ただ、この消毒をしてもなかなか症状が治まらない場合も中にはあります。
それには歯根の構造の複雑さが関係しています。
次の項目でお話していきます。
●根管の複雑さ
歯根の中の神経、血管の通り道である根管は、その本数、太さ、長さ、曲がり具合、すべてにおいて非常に複雑な作りとなっています。
歯の解剖学で、ある程度の根管の形態や根管数などは示されていますが、それでも個体差があり、まったく同じ歯根、根管の構造、というのは存在しません。
その中で、歯根の中の一番太い「主根管」と呼ばれる根管から、根の先端付近で横道のように枝分かれしている根管を「側枝」といいます。
この「側枝」は歯科用マイクロスコープと呼ばれる細部まで見ることができる顕微鏡を使っても確認しづらいことがあり、消毒がきっちりできないケースがあります。
そのため、どうしても経過が良くならない時は、この側枝が存在する歯根の末端を切除する、といった治療法を取ることもあります。
ただ、側枝があったとしてもまずは主根管の消毒をしっかり行うことで経過が落ち着いてくるという症例がほとんどです。
まずは主根管の根管治療をしっかりおこなっていく、というのが重要であり、根管治療のセオリーとなっています。
このように、根管治療は上で述べたような根の構造上、症状が軽減していくのに多少時間がかかる場合があります。
それによって通院回数が増えることは知っておいていただきたいポイントです。
〇まとめ
ここまで、抜髄後にも痛みが生じる理由について説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。
上記のように、神経を抜いたとしても、必ずしもすぐに痛みがなくなるわけではありません。
抜髄は体の一部である神経、血管を切断する処置で、抜髄後は、歯の中に、身体と同じように傷口ができている状態となります。
膝や肘を擦りむいて怪我をした時と同様、傷口が癒えるまではやはり痛みは出ますし、治るまでには時間が必要です。
炎症が強い状態であればそれだけ処置後の痛みも出やすいと言えます。
こういったことから、抜髄治療の直後は痛みがあったとしても、それは必ずしも異常というわけではありません。
ただ、経過を追う中で、痛みの程度が最初と変わらない、症状が落ち着かない、もしくは、逆に痛みが増してきている、といった場合は、ほかの原因を疑わなければならないこともあります。
そのような時は我慢をせず、是非、症状の経過をかかりつけ医にしっかり伝えるようにしましょう。
抜髄治療をしているのに痛みが出るとどうしても不安になりますが、治療が進めば経過は落ち着いてくることがほとんどです。
是非今回の記事を参考にしていただき、安心して引き続き治療を続けていただければと思います。