歯周基本治療における重要な治療の一つとして、歯石取りが挙げられます。 しかし、患者さんの中には歯石についての基本的な知識を知らないままの方もいるかと思います。 時として歯石の除去には痛みを伴うこともあり、 患者さんの不信感にもつながってしまう時があります。 どうしてその様なことになるのかを患者さんに知ってもらう狙いがあります。
〇歯石と歯垢の違い
歯石と聞くと歯にこびりついた硬い汚れと思う方が多いと思います。 基本的にその認識で間違いではありませんが、 歯石と歯垢についての違いはわかるでしょうか。 歯石取りは歯周病治療の最初に行われる重要な処置です。 どうして取る必要があるのかを再度確認してみましょう。
●歯石と歯垢の違い 歯石とは
歯石は一言で表すとプラークが石灰化して硬くなったものです。 プラークは初期には柔らかいのですが、 唾液に含まれるカルシウムやリン酸によって石灰化していきます。
歯石は成分の約80%ほどがリン酸カルシウムですが、 その他にタンパク質や細菌の死骸、細菌に由来する物質などで構成されています。 歯石自体が虫歯を引き起こすわけではありませんが、 歯石の表面が粗造なので汚れを付着させる足場になったり、 それ自体が歯茎の刺激になることが考えられています。
歯石は一度付くと自分で取り除くことが困難です。 また、プラークを付着させる原因となりえるため、 歯科医院で歯石を除去しているわけです。
●歯石と歯垢の違い 歯垢とは
歯垢はプラークとも呼ばれています。 歯垢は食べかすからできていると思われている方がいますが、 実際には細菌が殆どを占めています。 1mg中に1億個の細菌がいるとも言われています。
様々な菌がプラークを構成し、細菌同士が連携し粘つきを誘発させてさらに凝集しようとします。 細菌自体が棲家を作る様なイメージです。 そこから様々な毒素を出したり、自らを守るように薬が効きにくい構造にしていきます。 歯垢はそれ自体が悪い刺激を周囲に引き起こすため早めに取り除く必要があります。 歯垢は柔らかく歯ブラシで除去することが可能です。
〇歯石にも種類がある?
歯石と歯垢について簡単に違いを理解した上で、 歯石についてもう少し確認してみましょう。 歯石には種類があることをご存知でしょうか。 専門的には歯肉縁上歯石と歯肉縁下歯石があります。 どの様な違いがあるかを確認しましょう。
●歯肉縁上歯石の特徴
歯肉縁上歯石の特徴は
・色:黄色や乳白色
・位置:下の前歯の裏側、上の奥歯の頬側
という点です。 歯石の中では比較的容易に取ることができます。 位置に関しては唾液腺という唾液を作る場所の出口の部位が歯石がつきやすい場所になります。 歯肉縁上という表記のため、基本的には歯茎の上で歯に付いている歯石を指します。 歯垢に唾液に含まれているリン酸カルシウムが反応することによって歯石に変わっていきます。
●歯肉縁下歯石の特徴
歯肉縁下歯石の特徴は
・色:黒色や褐色
・位置:歯茎の下、特定の部位はない
という点です。 縁下歯石は強固に歯にこびりついているため、 取り除くことが非常に難しくなります。 色は黒色をしていますが、これは歯茎から出る滲出液(血に由来する成分)から歯石が作られるためそのような色になっています。 歯科医院で歯石取りを行う際に痛かった経験がある方がいるかもしれませんが、 歯茎の中深くに縁下歯石がある場合にはそれを除去するので痛みを伴うことが少なくありません。 また、歯茎の溝(ポケット)が深い場合には清掃器具が届かないことがあります。 その場合には外科処置を行い、歯茎を切って歯石取りを行うこともあります。
〇歯石を取る方法
歯石を取る場合には大まかに2つの場面があります。
・歯周基本治療を行うとき
・歯周外科処置を行うとき
があります。 勿論これらと平行して虫歯の治療や噛み合わせの治療、 被せ物の治療などを包括的に行っていくことになると思われます。 歯石取りを行う際にはどの様にするのかを確認しましょう。
●歯周基本治療を行う際の歯石取り
歯周基本治療とは外科治療を行う前の歯石取りになります。 一般的にはスケーラーといって手で歯石をこそぎ落とす様な器具を用います。 スケーラーにはいくつか種類があり、 手用のものから超音波を使用したものやエアースケーラーというものもあります。 何れにしても歯石を取る目的は変わりません。 一般的には縁上歯石を除去した後に縁下歯石を取り除く流れになることが多いです。
●歯周外科処置を行う際の歯石取り
歯周外科処置を行う場合には、 基本治療で取り除くことが出来ない歯石がある場合や 歯茎の状態が悪く歯周ポケットが深い場合などが該当します。 歯茎を切るメリットとして、直視して歯石を除去できる点があります。 基本治療では縁上歯石は見えますが、縁下歯石は盲目的に除去することになります。 結果として、取り残しがある場合や取りきれないことがあります。 外科処置では歯茎を開くのでしっかりと目で歯石の位置などを確認できるのです。 歯石を除去する際には基本治療で使用した道具を主に使います。
〇まとめ
歯石の基本と除去方法などを確認しました。 歯石が付着することは仕方がない面があります。 しかし、量を減らすことは可能です。 歯垢の状態で柔らかいうちに、歯磨きによって除去することが大切です。 歯石になると、自分で取り除くことは困難です。 歯石がついてしまったと感じた時や定期的なメンテナンスを受けていない場合には、 歯科医院に受診する様にしましょう。