こんにちは

先日、お電話で歯科治療に関してお問い合わせがありました。

診てみないとわからないので、来院していただくようお話ししたところ、「冷たいではないか」と言われてしまいました。

実際のところ電話で全てをお答えすることは難しく、来院して診察させてもらわなければ、答えようがないというのが実情です。

今回は、歯科での電話診療が難しい理由についてお話しします。

〇歯科だけでなく医科も基本は対面診療

歯科に限らず、医療の基本は医療者と患者が向き合う対面診療です。

●法律では対面診療が基本

医師や歯科医師は、医師法や歯科医師法に基づいて診療行為をおこなっています。

これらの法律には、診察の仕方についても、「自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付(中略)してはならない」と定められています。

●オンライン診療でも初診対面の原則

IT技術の急速な発展により、オンライン診療が登場しました。

厚生労働省では、法律上の要件とオンライン診療の関係についての解釈を出しています。

これによると、診療はやはり対面診療が基本で、対面診療を補完するものとしてオンライン診療を位置付けています。

初めての診察のことを「初診」といいます。

厚生労働省は、初診は直接対面した上での診療が欠かせないとし、オンライン診療だけで診療を完結させるのは法律違反であるとしています。

〇電話による歯科治療の限界

法律的な要件だけでなく、歯科医療の特性からも電話診療は困難です。

●医療相談は医療行為

電話をかけた側にとっては単なる相談というつもりであっても、医療に関する相談は、それ自体が医療行為に当たるため、答える歯科医療者側には責任が伴います。

したがって単に相談のつもりで電話をかけていただいたとしても、診察することなく相談に答えることはできません。

●電話で聞くだけでは状況把握が困難

歯科医院を受診しようとする方の症状はさまざまです。

既往疾患やアレルギー歴の有無を確認する程度なら、電話でも十分可能ですが、症状を確実に把握するのは困難です。

例えば、食べ物が挟まったとして、それが歯並びに原因があるのか、虫歯であるのかによって対応が全く異なります。

小さな虫歯であれば自覚することも難しく、ご本人は気がつかないことも考えられます。

電話で聞くだけで歯やお口の状況を把握するのは困難です。

●診断に必要な情報が得られない

対面診療であれば、歯やお口の中を十分診ることができるため、上顎の奥歯のように当人からは見えにくい部分の状況も把握できます。

レントゲン写真を撮影することも可能です。

電話診療では、レントゲン写真を撮影できないことはもちろん、歯やお口の状況を見ることができません。

診断に必要な情報を得ることができないので、正確な診断を下すことができません。

●歯科治療=外科治療

歯科治療の多くは外科処置です。

歯科治療イコール外科処置と聞くと驚かれるかもしれませんが、抜歯だけでなく、虫歯を削る処置も歯石を取る処置も実は外科処置に含まれます。

投薬や検査だけで済む内科的な治療がないわけではありませんが、外科処置がメインとなるため、対面診療でなければ歯科診療は成り立ちません。

●電話対応の時間が確保できない

歯科医院の多くは、歯科医師1~2名、歯科衛生士や歯科助手数名の小規模クリニックです。

電話回線も1回線だけということが多く、電話での応対にさけるスタッフの数も限られています。

少人数で日常の診療にあたっているため、電話での相談に長時間スタッフを当てることは大変難しいです。

〇電話等再診が認められるケース

法律上の要件から、電話での初診は健康保険の制度上、認められていません。

ですが、再診に限っては”電話等再診”という名称で保険診療の制度上認められています。

●要件

電話等再診では、患者本人や、看護にあたっている方からの電話やビデオ通話のみが認められています。

聴覚障害者を除き、ファックスや電子メール、チャットでの再診は認められていません。

●電話等再診が認められる医療行為

電話等再診で認められているのは、”治療上の意見を求められるケース”と”治療上必要な指示を出すケース”だけです。

すなわち、その医療機関で進められている治療に関しての問い合わせや、治療を進めるにあたっての注意点などの説明だけということです。

電話による再診だけでは、処方箋を出すことも認められていません。

〇新型コロナウイルス感染拡大予防のための特例

ここ数年続いている新型コロナウイルス感染の拡大を防ぐために、厚生労働省では電話や情報通信機器による診療、いわゆるオンライン診療を認めるようになりました。

歯科では従来、初診からの電話等診療は認められていませんでしたが、この度、一時的に臨時特例として認められるようになりました。

ただし、どのような場合においてもオンライン診察が認められるかというと、そうではありません。

●歯科医師の判断した範囲のみ

電話等で診療を求められ、歯科医師が電話による診療で診断や処方が医学的に可能であると判断した場合にだけ電話での診療が認められます。

●医薬品の処方をした場合のみ

電話等診療が認められるのは、診療行為だけで健康相談は認められません。

歯科医療では電話等診療だけで行える医療行為はほとんどありません。

厚生労働省では、健康相談ではないことを明確にするために、電話等診療は『医薬品を処方した場合』に限るとしています。

なお、処方の日数は、7日が上限で、処方箋の出ないオンライン診療は認めないとしています。

●身分証明書による本人確認

患者側だけでなく、歯科医師側も顔写真のついた身分証明書をお互い提示して、本人確認を行わなければなりません。

受診に先立ち、健康保険証の写しをファックスや電子メールで歯科医院に送っておく必要もあります。

〇まとめ

今回は、歯科での電話での診療や相談が難しい理由についてお話ししました。

電話診療が難しい理由は、

①日本の医療制度では、医療相談は医療行為と見做される

②歯科医療は、法律上、対面診療が原則

③診断を下すには対面診療で得られる情報が不可欠

④歯科治療の大多数は外科処置なので電話では診療できない

⑤限られたスタッフでは電話応対にかけられる時間が確保できない

⑥電話での再診が認められるのは、意見を求められる場合と指示を出すときのみ

などの理由によります。

新型コロナウイルスの感染拡大防止目的にオンライン診療が認められていますが、あくまでも時限措置で、いずれなくなると予想されます。

オンライン診療では歯科治療はもちろんできず、処方箋を交付することしかできません。

当院に限らず、歯科医療は対面診療が基本です。

もし、歯やお口の状態に不安を覚えた方は、電話で判断を仰ぐのではなく、ぜひ当院に来院して診断させてください。