こんにちは
先日、当院に通院していない私の友人から相談を受けました。
友人は、仕事の関係で引っ越したため、いつもと違う歯科医院を受診したそうです。
すると「それまで通っていた歯科医院では虫歯ゼロと言われてきたのに、新しい歯科医院では虫歯が数本あると言われた」そうです。
この虫歯は痛みも食べ物が挟まるということもないそうなので、初期虫歯だったのかも知れません。
ですが、同じ虫歯でも歯科医院によって診断結果が異なるとなると、不安に思う方も多いのではないでしょうか。
実は、虫歯治療のプロフェッショナルである歯科医師の間でも、虫歯の中でも特に初期虫歯は判断に迷うことが多いのです。
そこで、今回は、歯科医師の間で虫歯の診断が異なる理由についてお話しします。
〇虫歯の分類
虫歯は、進行状況によって数段階に分類されています。
虫歯の治療法はどこまで虫歯が進んだのかによって決まるので、虫歯の分類はとても大切です。
●歯の構造
歯は、外側からエナメル質、象牙質、内部の歯髄(歯の神経の部分)から成り立っています。
歯肉から上の部分、すなわち見えている部分を歯冠、歯肉より下の骨の中の部分を歯根とよんでいます。
●虫歯の分類
現代の歯科治療では、虫歯の治療にあたり、進行状況を5段階で評価しています。
①CO:歯の表面を覆うエナメル質の一部が脱灰し、白く変色した程度の状態です。
この段階では歯に穴は開いていません。
なお、COはシーゼロではなく、シーオーです。
②C1:虫歯が生じたけれど、エナメル質にとどまっている状態です。
③C2:虫歯が進行し、エナメル質から象牙質に広がった状態です。
④C3:虫歯が象牙質の奥にある歯髄に及んだ状態です。
⑤C4:虫歯が広範囲に広がり、歯冠のほとんどが失われた状態です。
虫歯の初期段階とされるのは、COからC1までの段階の虫歯です。
〇虫歯の診断に歯科医師で差が出る理由
歯科医師の間でも虫歯の診断が異なることがあるのには理由があります。
●客観的な診断方法がない
虫歯の診断方法は、歯科医師の視診(目でみる)と触診(指先の感覚)に頼っています。
言い方を変えると、虫歯の診断は歯科医師の主観によって下されるとも言え、現状では虫歯の進行具合や広がりを数値化するなどして客観的に判断することは難しいです。
初期虫歯ではシミのようにしか見えないこともあり、主観に頼らざるを得ないため、虫歯かどうかの判断が歯科医師の間でもわかれてしまうことも珍しくありません。
●レントゲンに写らないこともある
初期虫歯は、レントゲン写真に写らないことも多いです。
歯科で利用されているレントゲン写真は、主にパノラマエックス線写真とデンタルエックス線写真の2種類です。
パノラマエックス線写真は、お口全体の様子がよくわかるのですが、細かなところは写らないので、小さい初期虫歯を見つけ出すのは困難です。
デンタルエックス線写真は、お口全体は分かりませんが、細かなところをみるのに適しています。
パノラマエックス線写真でお口全体をチェックして、細かなところをデンタルエックス線写真でチェックするという方法が行われますが、それでも初期虫歯が写し出されないこともしばしば起こります。
レントゲン写真なら確実にわかるように思われがちですが、初期虫歯では必ずしもそうではないというところも、虫歯の判断を難しくしています。
●内部で広がるタイプの虫歯は見つけにくい
虫歯は、広がり方も実にさまざまです。
中には、一見すると小さな穴しかないのだけれども、中で広がっているという虫歯もあります。
このような虫歯が、歯と歯の間の面に生じると、発見することはとても難しいですし、噛み合わせの面に生じた場合であっても気がつかないことも多いです。
初期虫歯が気が付いたらこのような広がり方をしていたということもあるので、初期虫歯の段階から積極的に治療しようと判断する歯科医師もいれば、必ず内部でのみ広がるわけではないことから、しばらく様子を見ようという判断を下す歯科医師もいます。
これも虫歯治療の開始時期の判断に差が出る理由のひとつです。
●初期虫歯は痛みが出ない
”虫歯=歯が痛い”というようなイメージがあると思います。
ところが、初期段階の虫歯では痛みが生じません。
初期虫歯は小さい上に痛みも生じないので、歯科医師によってはすぐに治療せず、しばらく様子をみてからにしようという判断となることもあります。
もちろん、初期虫歯も虫歯ですから、小さなうちでも削って治すという判断もあり得ます。
この辺りの歯科医師間での判断の違いも、初期虫歯の治療では起こりがちです。
〇当院での虫歯治療の方針
当院では、虫歯の治療にあたって次のような方針で臨んでいます。
●虫歯の基準
当院でも虫歯の基準にしたがって虫歯の治療を進めていることは言うまでもありませんが、当院の方針として、虫歯の初期段階においては、治療すべきかどうかで判断しています。
すなわち、”治療すべき虫歯のようなもの”を虫歯と診断し、そうでない”治療の必要がなさそうなもの”は虫歯ではない診断するようにしています。
●厳しめか緩めかの基準
治療すべき虫歯かどうかを判断する基準については、受診の頻度によって違いを設けています。
以前からずっと定期的に当院を受診してくれている方については、もっと早く治療に取り掛かっておけばよかったということが起こりにくいので、”緩め”に判断しています。
一方、初めて受診された方や定期的に受診せず、何かあったときだけ来院されているような方は、次に来院されたときにはかなり進行している可能性があるので、”厳しめ”に判断しています。
〇まとめ
今回は、歯科医師の間でも虫歯の診断が異なる理由についてお話ししました。
虫歯の診断の差が生まれやすいのは、初期虫歯です。
その理由は、
①客観的な診断方法がない
②レントゲンに写らないこともある
③内部で広がるタイプの虫歯は見つけにくい
④初期虫歯は痛みが出ない
などです。
当院では、こうしたことから虫歯治療に対し、患者さんが不安に思うことがないように豊富な経験と専門知識に基づいた院内基準を設けて取り組んでいます。
他の歯科医院で虫歯を指摘されたけれどそのまま様子をみようと言われて不安に思っている方や、気づいていない虫歯がないか不安な方など、ぜひ当院にお越しください。