こんにちは

先日、歯科治療でレントゲン写真を撮影されたくない、できることなら撮影しないで治療してほしいとおっしゃる方が来られました。

ご希望は分かるのですが、残念ながら現代の歯科治療では、レントゲン写真を撮影することなく治療を進めることはできません。

今回は、歯科治療でレントゲン撮影が欠かせない理由や、被曝量と健康との関係性などについてお話しします。

〇歯科治療でレントゲン写真撮影が必要な理由

歯科では、診断を下すためにレントゲン写真撮影による検査が欠かせません。

●硬組織の病気の診断にはレントゲン写真が有用

歯科は、虫歯や歯周病などの歯や骨といった硬組織とよばれる部分の病気の治療を主に行っています。

虫歯も、虫歯があることがわかっても、どこまで進んでいるか外から見てもわかりませんし、歯周病も、歯を支えている歯槽骨という骨がどれくらいダメージを受けているか、外から見るだけでは判断できません。

そうです、硬組織に生じた病気がどれくらい進行しているのかは、外見だけではわからないのです。

そこで、硬組織に生じた病気は、レントゲン写真を撮影してその進行状況を確認しています。

●治療の進行状況が確認できる

例えば、歯の神経の治療をしたのち、神経があった部分をガッタパーチャという歯科材料で埋めます。

根の先まで隙間がないように埋めなければ、その隙間で細菌が繁殖し、根の先に膿を作る原因となります。

根の先までしっかりと埋められたかどうかは、目で見てもわからないので、レントゲン写真で確認しなくてはなりません。

治療が予定通り進んでいるかどうかの確認にも、レントゲン写真は必要です。

●病気の早期発見ができる

例えば、歯と歯の間に生じた虫歯は、特に奥歯の場合、なかなか見えません。

ある程度大きくなり歯がしみるようになってから気づくことも多いです。

ところが、レントゲン写真を撮影すると、自覚症状がない初期段階で見つけられます。

早い段階で見つかれば、コンポジットレジンというプラスチックを詰める治療で1日で治せることも珍しくありません。

これは一例ですが、レントゲン撮影には、病気の早期発見による有益性があります。

●病気の再発の有無が確認できる

歯周病治療が終わると、メインテナンスに移ります。

メインテナンスは、人によって違いがありますが、3~4ヶ月に一度くらいの間隔で行います。

このとき、メインテナンス数回につき、レントゲン写真を撮影しますが、この目的は歯槽骨の変化を見ることで、歯周病の再発の有無を確認することです。

レントゲン写真撮影は、硬組織の病気の再発の確認にも効果的です。

〇歯科のレントゲンの写真の種類

歯科で用いられるレントゲン写真はいろいろありますが、中でも代表的なものをご紹介します。

●歯科用CT

歯科用CTは、医科用のそれとは仕組みが違います。

医科用CTは、ベットに寝て、ベットがリング状の装置の中を移動することで撮影します。

これをヘリカル式といいます。

一方、歯科用CTは、椅子に座った状態で、装置が頭の周りをぐるりと回り撮影します。

こちらはコーンビーム式といいます。

歯科用CTは、装置がコンパクトで、分解能が高いのが特徴です。

また、歯科治療でよく使われる金属製の詰め物や被せ物があっても画像が乱れにくいという利点もあります。

このような特徴から、インプラントや親知らず、虫歯の治療など、現在、歯科治療で広く利用されつつあります。

●歯科用パノラマエックス線写真

歯科用パノラマエックス線写真は、お口全体の歯や骨を一度に撮影できるレントゲン写真です。

広い範囲が写る反面、細かなところはよく見えないのが難点です。

●歯科用デンタルエックス線写真

歯科用デンタルエックス線写真は、歯2~3本程度の小さなレントゲン写真です。

細かなところまでよく見えるのが利点ですが、お口全体を見るのにはあまり適していません。

●頭部エックス線規格写真

頭部エックス線規格写真は、矯正治療用に開発されたレントゲン写真です。

セファロともよばれます。

矯正治療以外で用いられることはほとんどありません。

〇医療用のレントゲン撮影と日常の放射線被曝の比較

現在、医療の現場で用いられるレントゲン写真と、日常生活で受ける放射線の被曝量を比べてみましょう。

●歯科でのレントゲン撮影

・歯科用CT:0.1ミリシーベルト

・歯科用パノラマエックス線写真:0.03ミリシーベルト

・歯科用デンタルエックス線写真:0.01ミリシーベルト

●医科でのレントゲン撮影

・肺の単純エックス線写真:0.05ミリシーベルト

・医科用CT:6.9ミリシーベルト

●日常生活

・自然放射線(日本平均):1.5ミリシーベルト

・自然放射線(世界平均):2.4ミリシーベルト

・東京~ニューヨーク間飛行:0.2ミリシーベルト

このように、歯科医療で行われているレントゲン写真撮影での被曝量は、医科用のそれと比較しても少ないですし、日常生活で受ける被曝量とではかなり低いことがわかります。

〇放射線被曝と健康

どれくらい放射線を被曝すると健康リスクが生じるのでしょうか。

100ミリシーベルト以上:がんの過剰発生のリスク

100~1000ミリシーベルト:造血系の機能障害

1000~10000ミリシーベルト:白内障や不妊、一時的脱毛

このように、健康に悪影響を及ぼす放射線被曝量は、100ミリシーベルト以上とされています。

歯科治療で使うレントゲン写真の放射線量では、問題とはなりません。

〇歯科のレントゲン撮影と健康保険制度の関係

一時期「不必要に何枚もレントゲン撮影をして儲けている」という批判があったことがあります。

今現在では健康保険の制度上撮影を算定できる枚数は細かく規定されており、

それをオーバーして撮影をしても算定できません。

つまり「ただで」撮影をしていることになります。

私たち歯科医師は「きちんとした治療のためには必要」と判断した場合、

お金にならなくとも撮影をすることが良くあります。

それは「正しい診断」をするためであり「きちんとした治療」をするためなのです。

〇まとめ

今回は、歯科治療でレントゲン写真撮影が欠かせない理由についてお話ししました。

歯科治療では、

①硬組織の病気の診断にはレントゲン写真が有用

②治療の進行状況が確認できる

③病気の早期発見ができる

④病気の再発の有無が確認できる

などにより、レントゲン写真撮影が行われています。

歯科で使うレントゲン写真撮影での放射線被曝量は、ごくわずかで、健康被害のリスクはまずありません。

しかも、撮影するのは必要最小限度に限られています。

得られる利益の方が多いので、安心してレントゲン写真撮影を受けていただければと思います。