こんにちは
先日、「仕事が忙しくてなかなか来られないので、一度にたくさんの治療をしてもらえませんか」と相談されました。
私も仕事をしている身ですから、この気持ちは痛いほど良くわかります。
逆の立場でしたら、きっとそう思うはずです。
ですから一度にたくさんの治療をしたいのは山々なのですが、そうしたくでもできない事情があるのです。
今回は、歯科治療を一度にたくさんできない理由についてお話しします。
〇一度にたくさんの治療ができない理由
左右の歯を一度にたくさん治療できない理由からご説明します。
●噛み合わせが変わらないようにするため
例えば、右の歯と左の歯に虫歯ができているとします。
もし右の歯と左の歯を同時に削ってしまうと、噛み合わせの関係が変わってしまうことがあります。
噛み合わせの関係が変わってしまうと、食事のときなどに何とも言えない違和感が生じるリスクが生まれます。
一度変わってしまった噛み合わせを元の状態に戻すのは難しいです。
噛み合わせが変わってしまわないようにするためにも、基本的に左右の歯は同時に治しません。
●あちこち痛くならないようにするため
虫歯が多い場合、あちこちの虫歯を同時に治療すると、複数の歯が同時に痛くなってしまうリスクがあります。
すると、冷たいものや熱いものを食べたり飲んだりしにくくなります。
痛い歯が片方だけなら、反対側で食べたり飲んだりできます。
これも、一度にたくさんの虫歯治療をしない理由です。
●左右同時に腫れると噛めなくなるため
親知らずに代表されるように、歯を抜くと腫れます。
腫れの程度は、抜く歯の状態によって異なりますが、左右の歯を同時に抜歯すると、両側が腫れてしまいます。
また、腫れの程度が大きいと、抜いた歯の隣の歯に炎症が広がり、噛むと痛くなることも珍しくありません。
両側の歯が腫れると食事ができなくなります。
噛めるところを確保しておくためにも、左右両側の歯を同時に治療しないようにしています。
●確実に治療してゆくため
意外に思われるかもしれませんが、右の歯の痛みを左の歯の痛みに感じたり、上の歯の痛みを下の歯の痛みに感じたりすることは珍しくありません。
虫歯など、歯の治療にあたる際には、どの歯にどのような症状が現れているのかきちんと確認しなければなりません。
一度にたくさんの歯を治療しようとすると、どの歯が痛くなっているのかわからなくなってしまうことがあります。
きちんと、確実に歯を治療するためにも、一度にたくさん治療せず、1本1本確実に治療を進めていかなくてはいけません。
〇歯科治療に時間がかかる理由
歯科治療には治療期間が長いイメージがありますが、それにも理由があります。
●新しい嚙み合わせに慣れるまでの時間がかかるため
新しい入れ歯や被せ物を入れると、それまでの間噛んでいなかった歯で急に噛めるようになります。
新しい入れ歯や被せ物でちゃんと噛めるかどうか、診察室での検査だけでは十分判断することは難しいです。
やはり、何かしらの食べ物を噛んでみないとわからないものです。
新しい入れ歯や被せ物が馴染まないうちに、そのほかの部分の治療を始めると、適切な噛み合わせがよくわからなくなってしまうことも珍しくありません。
このために、しばらく新しい入れ歯や被せ物で過ごしていただき、新しい噛み合わせに慣れるのを待ってから他の治療に移ります。
●製作に時間がかかるため
虫歯やケガなどで欠けた歯は、詰め物や被せ物で治療します。
コンポジットレジンというプラスチック製の詰め物で治療できる程度の小さな穴なら、その日のうちに治療を終えることができます。
しかし、コンポジットレジンでは難しい大きさや形の穴になってしまっていれば、歯型をとって金属やセラミック製の詰め物や被せ物を入れなければなりません。
金属の詰め物や被せ物は、歯型をとって作った石膏模型に手作業でロウで歯の形を作って、それを溶かして鋳造して作ります。
セラミック製の被せ物の工程はさらに複雑です。
ですから、どうしても製作に時間がかかります。
●薬の効果がすぐに出ないため
虫歯が進み、根の先に膿がたまっているような場合、歯の根の中から根の先に向けて消毒の薬を浸透させていきます。
根の中に入れる薬は、一度で効果が出ることはほとんどなく、何度も交換を繰り返す必要があります。
根の治療に時間がかかるのはこのためです。
●腫れが引くまでに時間がかかるため
例えば、虫歯や歯周病になり抜歯するとします。
抜歯したままではダメですから、ブリッジという被せ物や入れ歯、インプラントを入れる必要があります。
ところが、抜歯したところが落ち着くまでの間に、ブリッジや被せ物を入れると、腫れが落ち着いたあと隙間ができてしまいます。
抜歯による歯肉の腫れは、24~48時間がピークですが、引いてくるのにはさらに時間がかかります。
歯肉炎による腫れも同様で、歯周病治療をしても、抗菌薬を使っても、すぐにはなかなか引きません。
腫れが引いてくるのに時間がかかるため、歯の治療も治療期間が長くなってしまいます。
●番外編
実際に一度のたくさんの治療をするとなると、処置の時間が長くなります。
過去の最長記録は約4時間ですが、患者様のご要望で行ったこととはいえ、
お帰りになるときに「疲れました、今後は普通でよいです」
とおっしゃっていました。
〇まとめ
今回は、一度にたくさんの歯科治療ができない理由についてお話ししました。
一度にたくさんの歯科治療ができない理由は
①噛み合わせが変わらないようにするため
②あちこち痛くならないようにするため
③噛める側を確保しておくため
④患者様の疲労
などです。
治療期間が長いのにも理由があります。
治療期間や治療時間を短くするためにも、定期的に歯科医院でお口の状態をチェックしてもらい、虫歯や歯周病などが初期の段階で治療を受けるようにしてください。