こんにちは

近年、歯列不正を訴える方が増えているようです。

実際、矯正歯科を受診される方が年々増加しています。

どうして歯列不正が増えているのでしょうか。

今回は、現代人に歯列不正が多くなった理由についてお話しします。

〇人類のあごは実は小さい

現代人の歯列不正を考える上で、避けて通れないのが、人類の顎の大きさという問題です。

動物の口と人類の口を比べると、形が大きく異なります。

動物の口は、前方に突出しています。

この部分を”吻(くちさき)”といいます。

人類の口は、前方に突出していませんので、動物と比べると人類の口、すなわち顎は小さいといえます。

〇人類の顎が小さくなった理由

どうして動物と比べて人類の顎は小さくなったのでしょうか。

●手を使うようになった

人の顔も動物の顔も、実は口が中心です。

食べ物を効率よく見つけるために目や鼻や耳といった感覚器が口の周りに集められました。

もし顔の後ろに目があったら、食べにくいですよね。

動物は食べ物を口に運ぶことができませんから、口を吻に発達させて、食べやすくしています。

一方、人類は、手を使って食べるようになったので、吻がなくても、食べられるというわけです。

実際、手を使って食べることのある猿や類人猿の口は、そのほかの動物ほど吻が発達していませんね。

●火を使うようになった

100万~30万年ほど前の人類が原人だった時代に火の起こし方が発見され、火を使った調理が開発されました。

火を使って調理することで、食べ物の硬さが低下し、食べ物を噛み潰すときの負荷が小さくなり、噛む回数も減りました。

その後、調理に使う道具の改良や食べ物の加工性の向上により、食べ物や次第に食べやすくなります。

つまり、顎が小さくても、人類は十分食べ物を食べられるようになったので、動物のように大きくしっかりした顎が必要なくなったのです。

●栄養の節約

吻がないことで、人類は吻を作るための栄養がいらなくなり、その栄養を他に回すことができるようになりました。

また、吻を維持する栄養も必要ありません。

人類は吻がない分、そこに必要だった栄養を減らし、脳などその他の臓器に栄養を回すことができるようになったわけです。

〇歯の変化は遅い

骨格と歯では、進化による変化のスピードに違いがあります。

●歯の変化にかかる年月

歯はどの動物種においても、最も安定した組織と言われており、歯の形や大きさ、数が変化するのには数百万年ほどの時間が必要といわれています。

一方、骨もしっかり安定した組織ですが、歯には及びません。

数万年単位で十分変化します。

●顎と歯の変化の差

化石を調べると、人類の顎は、3万年ほど前の新人の頃から、急速に小さくなっているようです。

歯も一緒に小さくなってくれればいいのですが、この年月では、歯は小さくなるには不足です。

要するに、顎の骨が小さくなるスピードに歯が追いついていないのです。

〇現代人の歯列不正は増えているのか

日本人の歯列不正の発生頻度を研究したデータがあります。

これによりますと、縄文時代の日本人では20%ほどに歯列不正が見られました。

時代が進み、弥生時代になるとこれが50%ほどにまで達し、これ以降、40〜60%の幅で明治時代まで推移します。

昭和時代の初期では、歯列不正の発生頻度は60%ほどでしたので、あまり差はありません。

ところが、戦後に生まれた日本人の間では歯列不正の頻度が70%以上に急に上昇しました。

このことからも、現代の日本人に歯列不正が増えてきたことがわかります。

〇現代人に歯列不正が増えてきた理由

顎と歯のサイズの不調和は今に始まったことではありません。

では、現代人に歯列不正が多くなった理由は一体何なのでしょうか。

●硬いものを食べなければ顎の骨は大きくならない

ヒトの顎の骨は、幼少期に固いものを噛むことで得られる刺激が、下顎頭という下顎骨の顎関節部分に伝わり、成長発育が促されることが明らかになっています。

小さな頃に固いものをしっかり噛んで育つと、顎の骨がしっかりとした骨になります。

一方、やわらかいものを好み、噛むことが少なくなると、顎の骨は大きく育ちません。

●歯の大きさは食生活では変わらない

やわらかいもの中心の食生活を小さな頃から送って、顎の骨がしっかりと大きく育たなかったとしても、歯の大きさも小さくなってくれれば、顎の骨格と歯の大きさのバランスはとれます。

ところが、食生活がやわらかいもの中心になっても、歯の大きさは変わりません。

歯の大きさは、顎の骨格と異なり、遺伝的に決まっているからです。

●戦後の食生活の変化の影響

日本人の食生活は、太平洋戦争を境にして、和食中心の食事から、洋食中心の食事へと急激に変わりました。

食生活の欧米化により、現代の日本人は戦前よりも固いものを食べる機会が減少しました。

このため、高度成長期以降に生まれた日本人の多くで顎の骨格の成長発育が弱くなり、顎の骨が一層小さくなりました。

実際、固いものを食べていた江戸時代以前のエラが張った人が多かった日本人と比べると、現代人の顎の骨格や筋肉は弱く、ほっそりした顔が多くなっているようです。

人類の口は他の動物と比べて小さくなってきましたが、それに輪をかけて現代人の顎の骨格、すなわち口は小さくなりつつあるのです。

顎の骨が小さくなっても歯の数や大きさは変わらないので、歯が並ぶスペースが不足し、歯列不正が多くなったというわけです。

〇まとめ

今回は、現代人に歯列不正が多くなった理由についてお話ししました。

人類は、火を手に入れたことで固いものを噛む必要性が低下し、進化の過程で顎の骨格が小さくなってきています。

一方、歯の大きさや形は、顎の骨格の変化に追いついていないので、歯列不正が生じやすくなっています。

また、戦後の食生活の欧米化がそれに拍車をかけたことも否めません。

なぜなら、顎の骨格は幼少期にどれだけ固いものを噛んだかによって成長発育が左右されるからです。

最近増えてきたほっそりとした顔の方は、顎が小さく、それだけ歯列不正を生じやすい傾向があります。

例えていうなら、鉛筆をきれいに並べてしまおうとしても、鉛筆立てが小さければ、きれいに並べられないといったところでしょうか。

当院は、矯正歯科の専門的知識や経験の豊富な歯科医院です。

歯並びに疑問や不安のある方は、当院でぜひご相談ください。