こんにちは

歯列矯正を終えた後、しばらくしてから歯並びが悪くなることがあります。

これを「後戻り」といいます。

後戻りを起こしてしまうのは、実は歯が生涯動き続けているからです。

これは、歯科医師の間ではごく知られたことですが、一般の方の間ではあまり馴染みにないことかもしれません。

そこで今回は、生涯動き続ける歯と矯正治療の関係についてお話しします。

〇歯は動き続ける

歯が動くという現象については、紀元前の古代ギリシャ時代の医学関連の資料にも書かれています。

人類は意外と古い時代から、歯が動くという現象を知っていたようです。

●歯は動くのが正常

歯は生えてから、常に少しずつですが、前方に向かって、そして伸びる方向に動いています。

これを”生理的な歯の移動”といいます。

生理的とは、正常という意味に思っていただいて大丈夫です。

ですから、歯が動くこと自体は、全く正常な身体の働き、反応なので、何の心配もありません。

●歯が動くので噛める

例えば、長年にわたって噛み合っている歯は、少しずつすり減ってきます。

すり減っているのに噛み合っているのは不思議ではありませんか。

これこそ、まさに生理的な歯の移動によって、歯が噛み合わせられるように、歯が動いているからなのです。

虫歯やケガで歯が少し欠けても噛めるというのも、歯が動いて噛み合わせが変わるからです。

歯は少しずつ動くことで、長い人生の間に起こるさまざまな歯のトラブルに対応できるようになっているわけです。

●歯の動きと矯正治療の関係

歯は生涯動き続けるわけですが、矯正治療は、まさにこの現象を利用して歯並びを整える治療です。

簡単にいうと、歯が動く向きを歯並びが整う方向にコントロールすることで、歯並びをきれいに整えるのが矯正治療です。

この歯の動きをコントロールするのが、矯正装置によって生み出される矯正力です。

矯正装置を取り外し、歯の動きをコントロールしなくなれば、歯は自由に動くようになります。

自由といっても、何らかの刺激が必要です。

不良習癖という歯並びを悪くする癖によって歯が動くこともあれば、虫歯や歯周病で動くこともあります。

こうしたさまざまな原因により、矯正治療後、歯が移動し、後戻りを起こします。

歯が動くという現象は、矯正治療を進めるための福音でもありますが、同時に歯並びを悪くする原因でもあるわけです。

●動く幅はさほど大きくない

歯は生涯動き続けるので、後戻りも起こるわけですが、歯列矯正のときのように人為的に歯の動きをコントロールしない限り、短期間で歯が大きく動くことはありません。

歯が動くといっても、年単位の時間をかけて、少しずつです。

しかも、その範囲は限定的です。

したがって、矯正治療後の後戻り症状の多くは、前歯の歯並びが少し凸凹としたり、ちょっとした隙間ができたりする程度です。

〇後戻りを防ぐ方法

歯は、動き続けるものなので、矯正治療の後戻りもまた、正常な反応です。

ですが、せっかく長い時間をかけた矯正治療の結果ですから、後戻りはできるだけ防ぎたいところです。

実は、実は後戻りを防ぐ方法があります。

それを保定(ほてい)といいます。

●保定とは

保定とは、きれいに整えられた歯並びが後戻りしないで、その位置を保ち続けるようにすることです。

最近では、保定は単に歯並びの位置や形を保つだけではなく、噛み合わせという歯の機能を将来にわたって安定させるという意味も含まれるようになってきました。

●リテーナー(保定装置)

保定には、何もすることなく歯並びの維持を図る自然的保定と器械を使う器械的保定の2種類がありますが、矯正治療を終えた直後、自然的保定は期待できません。

器械的保定に使う矯正装置をリテーナー(保定装置)といいます。

保定装置は、歯に接着して取り外せない固定式と、取り外しができる可撤式の2種類が主に利用されています。

●保定期間

保定装置を利用する期間を保定期間といいます。

保定期間は、年齢や元の歯並びの状態、歯列矯正中の歯の移動距離や動かした歯の本数などの経過などによって異なります。

一般的には、歯列矯正に要した期間と同じ期間を保定期間とすることが多いですが、必ずしも十分とは限りません。

長ければ長いほど良いということです。

なお、年齢が高くなるにつれて、保定期間は長くなる傾向があります。

〇後戻りを起こした場合の対処法

もし、歯列矯正を終えたのちに、歯並びが後戻りを起こした場合は、どうすればいいのでしょうか。

●再治療

基本的な対処法は、再矯正治療です。

ただし、後戻り後の歯列矯正は、最初の歯列矯正のときほど、歯並びが悪くなっていないことがほとんどです。

治療期間も短く、矯正装置も歯並び全体ではなく部分的につけるだけですむことも多いです。

●不良習癖の解消

不良習癖と一言で言っても、さまざまな不良習癖があります。

多いのは、舌癖という舌を前に出す癖や口呼吸です。

そのほか、歯ぎしりのような噛み合わせの癖も不良習癖に含まれます。

不良習癖は、矯正治療を受けている間に治しておくべきなのですが、癖なので治したと思っていても、知らない間に再発していることもあります。

再治療にあたっては、不良習癖の認められる方は不良習癖の解消も同時に進めていかなければなりません。

〇まとめ

今回は、歯科矯正治療と関係深い、”歯は生涯動き続ける”という現象についてお話ししました。

歯は、生涯動き続けます。

これは、生理的な歯の動きといって、誰でもみられる正常な現象で、少しずつ前へ、上へ動いています。

これがあるので、歯がすり減るなど形が変わっても、きちんと噛み合わせられるのですが、矯正治療で歯並びがきれいになるのも、後戻りを起こすのもこれによって起こります。

当院では、矯正治療にあたり、歯が生涯動き続けるという前提に立ち、後戻りを起こしにくい、もしくは多少起こしても歯並びが悪くならないような治療計画を立てています。

これには、歯列矯正の専門的な知識だけでなく、豊富な治療経験が欠かせません。

もし歯列矯正の後の後戻りに不安のある方、実際に後戻りが起こって悩んでいる方は、当院でぜひご相談ください。