「痛くもない歯を削ってまで治療する必要があるのですか?」
過去に患者さんからいただいた質問です。
まずは痛みが出る仕組みから、、、
●歯の構造
痛みを感じるのは歯の中にある神経(歯髄)です。
虫歯が始まると、歯の中央方向に少しづつ侵食してゆき、
歯髄に近づきます。
その虫歯の刺激に反応して、歯髄が「しみる〜いたい」、という反応をするようになります。
●歯髄の耐性
ただ虫歯の刺激が少しでもあると、歯髄がすぐ痛がり出すわけではありません。
ある程度刺激が大きくなるまでは、なんの症状も起きないのです。
逆に言えば、刺激を受けていても最初は必ずしも痛がりません。
刺激が大きくなってあるレベル(閾値(いきち、しきいち))を超えると、
歯髄の中に変化が起きて、しみるようになってゆきます。
●例え話
学校で大人しい生徒がいたとします。
クラスメイトがいじめても、あまり反応しません。
いい気になって続けていると、
ある日溜まりに溜まった鬱憤が爆発!事件が起きた!
みたいなことが起こりますよね。
彼は表面上怒ってなかったけど、実はストレスを受けていたんです。
閾値を超えたところで、いきなり反応を起こして人目につくことになります。
歯髄もそんな性格?なんです。
だから、ちょっとしみる、とか全く症状がない、とかで安心しないで欲しいのです。
虫歯があれば、歯髄はそれ相応の刺激は受けています。すでに。
●再び歯髄の話
しみたり、多少痛がりだしても、それはまだ良い方なんです。
なぜなら、刺激を取り除いてあげたら歯髄が元の状況に戻るかもしれないからです。
(可逆性変化と言います)
つまり早期に虫歯を除去してあげたらしみなくなって、結果痛く無くなる可能性があるわけです。
●しかし一方
刺激が長期にわたって継続したり、強くなると、
歯髄の中に炎症が起きて、内圧が高まります。
こうなる激痛が絶え間なく続きますし、もう元の状態に戻ることはできません。
(不可逆性変化と言います)
クラスのいじめられっ子がついに精神を病んだ、とか自ら命を絶った、
みたいなことですね。
その時点で発覚しても、もう取り返しがつかないわけです。
●虫歯処置の方法との兼ね合い
小さな虫歯であれば、小さく削ってその部分をプラスティック(レジン)で埋めれば良いです。
あわよくば一回の治療で完了する、審美性にも変化が少ないのです。
痛くなってからの治療だと、神経を取る必要があり、治療回数が増える。
なにせ、不可逆性の変化を起こして痛がっている神経ですから、
取り除くしか方法がありません。
さらに、神経を抜いた歯は弱いので、補強する必要があるし、穴も大きいはずです。
そのようなわけで、全体かぶせで治す必要がある(クラウンと言います)。
ただ、そうやって直せるのはまだマシで、虫歯があまりにも大きければ治すことすらできない。
そんなこともあります。
何れにしても、小さい処置で済ませるには早期の治療が必要である、ということです。
●過去の実例でお話しします(20年前くらいです)
「虫歯があるらしく、痛いので見てください」
とのことで診察した女子高校生の患者さん。
症状は、「昨日から急にしみるようになって、いまは少しだがズキズキする」でした。
レントゲンでみると、奥歯の一本が大きな虫歯にやられています。
昔すぎてレントゲンがないのでイラストで説明します。
レントゲンではこのような状態。
歯冠部の象牙質全体に虫歯が広がっており、虫歯に食われてしまった状態。
エナメル質は硬いので食われていません。
つまり歯の形はよく残っているのですが、中で虫歯が大きく広がった状態です。
もちろん、虫歯部分は歯髄に達しており、そのせいで痛むわけです。
ここまで虫歯が進んでいても、症状は「激痛」ではなかったりします。
で、結果治療はどうなったかと言うと、抜歯です。
虫歯部分を除去した結果、残りが少なすぎて、
その部分を頼りに元の形に修復することが出来ませんでした。
痛くなるまで待った結果が抜歯というわけです。
●まとめ
定期検診で虫歯を小さいうちに発見し、小さい処置で治しておきましょう。
虫歯は基本的にあまり痛くありません。
ですから、痛くなくてもそこに虫歯が存在しているのなら治療は必要です。
痛くなってからでは遅すぎて抜歯になってしまうかもしれませんので。