こんにちは
大人になってから歯を失う原因として頻度が増してくるのが歯周病です。
歯周病は、困ったことに症状がゆっくりと静かに進んでいきますので、歯周病になっていても気が付かないことが多い病気です。
このため、歯並びをきれいにしようと矯正歯科を受診して、初めて歯周病に気がつくということもしばしば起こっています。
歯周病になっていても自覚症状に乏しい場合、先に矯正治療を進めてほしいという方がいらっしゃいますが、歯周病のまま矯正治療を進めるのはできません。
矯正治療に先立ち、歯周病の治療をしなければなりません。
どうして、自覚症状がほとんどないのに、矯正治療を専攻できないのでしょうか。
今回は、矯正治療の前に歯周病を治療しておかなければならない理由についてお話しします。
〇歯周病について
まず、歯周病についてご説明します。
●歯周病とは
歯周病は、歯周組織に生じた病気の総称です。
歯周組織とは、歯肉(歯ぐき)・歯槽骨(歯の周囲の骨)・セメント質(歯根の表面)・歯根膜(歯槽骨とセメント質をつなげている靭帯のような組織)の4つで成り立っている組織です。
このことから、歯周病は歯そのものではなく、歯の周りに生じる病気であることがわかります。
ただし、歯肉ガンのような悪性腫瘍や口内炎などは歯周病には含まれません。
●歯周病の症状
歯周病は、歯周病菌というお口の中の細菌が原因となって起こる病気です。
歯周病の初期症状は、歯肉の腫れや痛みなどの歯肉炎です。
歯肉炎を放置していると、歯肉以外の歯周組織に炎症が広がり、歯周炎に進行します。
歯周炎になると、歯槽骨が吸収されて減少し、歯がグラグラと動くようになります。
さらに歯周炎が進行すると、歯が抜けてしまいます。
●歯周病で歯槽骨が吸収される理由
歯周病の原因である歯周病菌は、LPSという毒素を作り出します。
身体は、歯周病菌の作り出した毒素から身体を守るため、炎症性サイトカインという物質を出して対抗します。
この身体の反応を炎症反応といいます。
ところで、人の身体には、骨を作る骨芽細胞と骨を溶かす破骨細胞があります。
炎症反応を受けると、破骨細胞の活動が活発化します。
その一方で、骨を作る骨芽細胞は活発化することはありません。
このため、歯槽骨が活発化した破骨細胞の影響を受けて、吸収されて減ってしまうと考えられています。
〇矯正治療について
矯正治療は、歯に力を加えて歯を動かす歯科治療です。
動的治療ともよばれます。
この歯に加わる力を矯正力といいます。
現代の矯正治療で最も広く普及しているマルチブラケット矯正では、ワイヤーの弾力性を矯正力として利用しています。
近年、人気が高まっているマウスピース矯正では、マウスピースの硬さを矯正力としています。
矯正力の与え方はさまざまですが、適正な矯正力で歯を移動させるという点では、全ての矯正治療で違いがありません。
〇矯正治療による歯周組織の変化
矯正治療を受けると、歯周組織にも変化が生じます。
●歯根膜の変形
矯正治療で歯を移動させるために歯に矯正力を与えると、歯を移動させたい方向の歯根膜は圧縮されます。
そして、反対側の歯根膜は伸ばされます。
このような歯根膜の変化は、身体にとっては必要のない変化です。
身体は、矯正治療を受けているなんて考えませんから、この変化に対する防御反応として、炎症反応を示します。
歯周病による炎症と違い、矯正力による炎症反応は病的なものではないので、心配ありません。
●矯正治療による歯槽骨の変化
矯正力を受けて圧迫された歯根膜に接している歯槽骨には、炎症反応を受けて破骨細胞が現れ、歯槽骨を少しずつ溶かしていきます。
一方、その反対側の歯根膜が引き延ばされた歯槽骨には、骨芽細胞が現れ、新しい歯槽骨を作っていきます。
矯正治療での炎症反応は、歯周病のような病的な炎症反応ではないので、骨芽細胞もしっかりと働いてくれます。
こうして矯正力を受けた歯は歯槽骨の吸収と新生が同時に起こり、歯が移動します。
〇矯正治療と歯周病の関係
歯周病のまま矯正治療を受けると、歯周病が悪化する恐れがあります。
●歯周病菌の活動性が高まる
歯周病の原因である歯周病菌は、歯の表面についているプラークの中に潜んでいます。
歯周病予防で歯磨きが重視されるのは、プラークを取り除くことで歯周病菌の数を減らすためです。
歯周病菌の数が減ると、歯周病菌の作り出す毒素も減るので、歯周組織が守られるというわけです。
ところが、矯正治療を受けると、矯正装置のために歯磨きがしにくくなります。
このため、プラークの量が増加し、歯周病菌の活動性が高まり、歯周病の進行が早まります。
●唾液の抗菌作用も低下する
唾液には、歯周病菌などのお口の中の細菌の活動を抑える抗菌作用や、汚れを洗い流す洗浄作用、傷を治す創傷治癒促進作用などさまざまな作用があります。
矯正装置が歯についていると、歯の周囲の唾液の流れが悪くなり、唾液の持っているさまざまな作用が得られにくくなります。
このため、やはり歯周病菌の活動を抑えにくくなり、歯周病が進行しやすくなります。
●歯槽骨の吸収が加速する
前述したように、歯周病では歯周病菌の作り出した毒素に対する炎症反応の結果として、歯槽骨が吸収されます。
この炎症反応は病的なものなので、骨芽細胞の活動は低下しています。
そこに矯正力による炎症が加わりますと、破骨細胞の活動性が増す一方、骨芽細胞のそれは活発化するわけではありません。
このため、歯槽骨の吸収が加速され、歯を支える歯槽骨がより一層失われます。
歯を支えるだけの十分な歯槽骨が失われてしまった場合は、歯が抜けてしまうことになります。
<h2>まとめ</h2>
今回は、矯正治療の前に歯周病を治療しておかなければならない理由についてご説明しました。
歯周病は、歯周病菌が引き起こす病気で、歯肉の炎症から始まり、放置していると歯槽骨が吸収され、やがて歯を失うことになります。
矯正治療中は、
①歯磨きが難しい
②唾液の働きが低下する
などの理由で歯周病菌の活動性が増します。
また、
歯を移動させるときの炎症反応が、歯周病での歯槽骨吸収を早めてしまいます。
こうしたことから、矯正治療中は、歯周病がより一層進行しやすくなります。
矯正治療をお考えの方で、歯周病を指摘された方は、主治医の歯科医師とまずはしっかりとご相談になり、その上で、治療を進めるようにしてください。
当院は、大人の方の矯正治療に関して、矯正治療だけでなく歯周病や虫歯の専門知識も治療経験も豊富な歯科医院です。
矯正治療をお考えの方は、当院でぜひご相談ください。