高齢になるにつれて、特に女性の場合には骨粗鬆症のリスクが高くなります。 骨粗鬆症の薬と歯科治療については基本的な治療に際して問題とはなりませんが、抜歯などでは問題となることがあります。 患者さんへの注意喚起と服薬状況等をしっかりと自分で把握しておいてもらい、歯科医師に伝え忘れないようにしてもらうことを訴えています。
〇骨粗鬆症について
骨粗鬆症というものを聞いたことはあるとは思いますが、 基本的なところからおさらいしたいと思います。 骨粗鬆症を簡単に表現すると骨密度の低下と骨質の劣化によって骨強度が低下する疾患であると言えます。 WHO(世界保健機関)は「骨粗鬆症は低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し骨折の危険性が増大する疾患である」と定義しています。 この時点では骨粗鬆症は骨折に至る過程であり、骨折は結果として生じる合併症の一つとされていました。 2000年になり、米国立衛生研究所は「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と定義しています。 よく聞く骨密度に加えて他にも骨折危険因子があり、骨強度=骨密度+骨質というという関係性が成り立つとされています。 骨強度の70%は骨密度によるものですが、他にも因子があるということです。
●骨粗鬆症の成因
骨粗鬆症の成因は骨のサイズや形状を決める先天的な要因に加えて、閉経に伴う性ホルモンの内分泌異常や栄養や生活環境によるものが考えられています。 その他にも特定の疾患や薬物治療によるものもあります。 女性はホルモン分泌の関係から男性よりも骨粗鬆症の有病率が高く、 年齢別に見ても加齢に伴い女性の有病率は非常に高くなります。
〇骨粗鬆症と歯科治療について
骨粗鬆症について簡単におさらいしたところで、本題に入ります。 骨粗鬆症治療中の方において歯科治療が問題になるかどうかという点です。 骨粗鬆症治療中の方は、薬の種類によっては顎骨壊死という症状が起こる場合があります。
●顎骨壊死とは何か
顎骨壊死とはその名の通り顎の骨が壊死してしまう状態を指します。 無症状で顎の骨が露出するような状態から感染を伴い骨髄炎といった痛みを伴う状態になることもあります。 このような状態は骨粗鬆症に関連する様々な薬と関連があるため現在では薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)と呼ばれています。 歯科治療において抜歯など外科処置に関わる治療がある場合には注意が必要になります。 発症頻度は骨粗鬆症治療薬として有名なビスホスホネート製剤において高容量のものであれば、 10万人あたり約1600人、低容量のものであれば10万人あたり約23人という報告があります。
●歯科治療の可否
薬の副作用による顎骨壊死というと怖くなるかもしれませんが、 自身の判断で勝手に薬を止めたりしてはいけません。 まず前提として、抜歯など外科処置(歯を抜く、歯茎をきる、インプラント治療など)がない治療であれば一般的に問題なく行うことが可能です。 治療に注意を要するのは外科処置の時です。 そのような治療について検討したものに2023年の顎骨壊死検討委員会のポジションペーパーがあります。 その中では原則として抜歯時に休薬はしないとしています。 休薬による有用性のエビデンスがまだ確実に得られていないためです。 もちろん現在服用中の薬の容量や種類によって休薬すべきかの判断を患者さんごとに行う必要性があります。 これについては、歯科医師がかかりつけ医などと相談の上で治療を進めます。 したがって、必ず治療の際には治療薬とかかりつけ医の情報を歯科医師に伝えるようにしましょう。
〇骨粗鬆症の治療薬の確認
骨粗鬆症の治療薬にはいくつか種類があります。 顎骨壊死と関連する薬剤の代表的なものには以下があります。
・ビスホスホネート製剤(商品名:フォサマック錠、ボナロン錠、ボンビバ錠 、ボノテオ錠 など)
・抗RANKL抗体薬(商品名:プラリア など)
・抗スクレロスチン抗体薬(商品名:イベニティ など)
ビスホスホネート製剤は種類が多いため、もし薬を飲んでいる場合には自身が該当するかを確認しましょう。 またこれらは内服や注射など種類があります。今回はこれらの薬は骨粗鬆症治療薬として取り上げてきていますが、悪性腫瘍で骨転移がある方や甲状腺疾患がある方にも処方されている場合があります。
●顎骨壊死の予防方法
抜歯などの外科処置を行う必要があり、骨粗鬆症の薬を今後処方される予定があると仮定します。 その場合には前もって外科処置を行う方が良いとされています。 抜歯などの外科処置をするのは気が進まないかもしれませんが、 そのような治療はMRONJの発症予防になるとされています。 既に上記に該当する薬を内服等している場合には、 自身でできる予防は口の中の環境を清潔に保つことです。 薬剤服用中の前立腺がん骨転移患者に対して、3ヶ月ごとの歯科の介入があった郡となかった郡で比較した調査があります。 顎骨壊死のリスクが歯科介入がない場合において2.59倍高かったという結果が報告されています。 自身での口腔清掃と定期的な歯科医院におけるメインテナンスが重要なようです。
〇まとめ
骨粗鬆症と歯科治療について確認してきました。 薬の種類によっては顎の骨の壊死や炎症が起こる可能性があります。 しかし、過度に恐れて勝手に薬を止めることはしないようにしましょう。 医科や歯科との情報共有や定期的なメインテナンスは大切です。 基本的に飲み薬の場合には休薬せず治療を行います。 注射による薬剤使用の場合には医科や口腔外科にて全身管理下で治療を行うことがあります。 歯科医院に受診する際には薬の種類や既往歴などをしっかりと伝えられるようにしましょう。 薬の種類が多い場合にはお薬手帳などを持っていくようにしましょう。