酸蝕症は歯の表面が脱灰するため審美障害などを呈します。 日常的な飲食物や全身的な疾患、場合によっては職業由来のものもあるため酸蝕症についての理解を患者さんに深めてもらう狙いがあります。 治療においては齲蝕治療に準じるため、治療のために来院してもらうように誘導しています。
〇歯が溶ける酸蝕症
酸蝕症は皆さんにとって馴染みのないものかもしれません。 酸蝕症と虫歯は異なります。 虫歯は虫歯の原因となる菌が酸を作り、それが歯を溶かしていきます。 酸蝕症は虫歯の菌に由来せず、個人が摂取する飲食物や持病、時に職業によって歯が溶けてしまう疾患です。 虫歯のように歯の形が変わり凹んだり、尖りが丸くなったりします。時として色が変わります。
●酸蝕症の特徴
酸蝕症になると虫歯に類似した症状を呈します。 歯の表面にあるエナメル質が溶け、構造が粗造になり内側にある象牙質が剥き出しの状況になります。すると、歯の形や色が変わる、歯がしみるなどの症状が出てきます。 内側の象牙質が見えてくるので、表層のエナメル質よりも酸に弱く虫歯がその部位に生じると急速に進行する可能性があります。 酸蝕症により歯が脆くなっている状態の部位で歯軋りなどの力が加わると歯のすり減りがより顕著になります。
〇酸蝕症の原因
酸蝕症の原因は虫歯の菌ではありません。主に原因が3つ考えられます。
①酸度の高い飲食物
②逆流性食道炎などの疾患
③酸を使用する職業
これらの原因を1つずつ確認してみましょう。
●酸蝕症の原因①酸度の高い飲食物
皆さんに一番関係し、起こり得るものは酸度の高い飲食物を摂取することによって酸蝕症になることです。 通常歯のエナメル質はpH5.5が臨界pHとされています。 これ以上酸性のものを口に含むと一旦表層が溶けてしまいます。 しかし、この状況を改善してくれるものがあります。 それが唾液です。 唾液は酸性に傾いたお口の環境を中性に戻す働きがあります。 これにより、皆さんは口の中が中性に近い環境に保たれています。 酸度の高い飲食物が長時間口の中にある状況では、唾液の恩恵が得られない状態が続き、結果として歯の脱灰が起こります。 酸度の高い飲食物の例として、柑橘系のジュース、スポーツ飲料、栄養ドリンク、黒酢などが挙げられます。 これらを全く摂取しないで生活することは不可能に近く、摂取する量や摂取する時間(長さ)が酸蝕症のなりやすさを左右します。 これらに気をつければ摂取自体をあまり気にしすぎる必要性はありません。
●酸蝕症の原因②逆流性食道炎などの疾患
逆流性食道炎など習慣的に嘔吐をしてしまう疾患を有する方は、酸蝕症になりやすいと言えます。 胃液はpHが1から2程度と強酸です。 日頃から嘔吐をする方はこのような酸性のものが歯に及ぼす影響が高くなります。 摂食障害やアルコール依存症などの全身的な疾患が口の中に影響を及ぼし、結果として酸蝕症を呈することがあります。 また、唾液の分泌状態も酸蝕症のなりやすさを左右します。 唾液は口の中の環境を酸性から中性に戻す働きがありますが、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患では唾液の分泌が悪くなります。 結果として、口の中の環境が酸性に保たれやすくなり酸蝕症になりやすいと言えます。
●酸蝕症の原因③酸を使用する職業
一般の方には馴染みがないかもしれませんが、職業の中には非常に強い酸を扱う職業があります。 強い酸は直接口に含まなくてもその蒸気やガスによって歯に影響を受けることがあります。 塩酸や硝酸、硫酸、フッ化水素などは代表的な強酸です。 強い酸を使用する代表的な職業としてメッキ、バッテリー、化学繊維、硫黄鉱山、火薬などの産業において酸蝕症が起こりやすいと言えます。 作業管理を徹底することが重要にはなりますが、このような職業に従事する方の事業者は従業員に対しての歯科検診が義務づけられています。 法律で定められる程に重要であるということです。
〇酸蝕症の治療法
酸蝕症の特徴や原因を確認した上で、治療法も確認しましょう。 治療法は虫歯治療に準じることになります。 歯は一旦溶けてしまうと、元に戻る場合もありますが多くは元に戻らずそのままです。 虫歯になればさらに状況は悪化します。 それ以上の侵食を防ぎ、歯の形態や審美的不良を改善させるために、詰める処置や被せる処置を行います。 詰める処置は一般的に前歯の審美的に影響しやすい部位や治療する面積が狭い場合に適応します。 被せる処置は奥歯の場合や歯の崩壊が大きい場合に行います。 虫歯と同様に小さいうちに治療をした方が、早く簡単に治すことが可能な場合が多いです。 放っておいて良いことはありません。
〇まとめ
酸蝕症について確認してきました。 虫歯と異なり虫歯の菌が原因ではありません。 日頃の飲食物が意外と歯に悪影響を及ぼすことがあります。 歯に悪いからといってそのような飲食物を摂らないようにするということではなく、摂取する量や口に含む長さに気をつければ神経質になる必要はありません。 もし心配な場合には、酸度の高い飲食物を摂取した場合には水やお茶を飲む、うがいをするなどをすると良いでしょう。 また、唾液の分泌もお口の環境を整える上で重要です。 唾液の分泌が心配な方は1度、歯科医院で相談してみましょう。