歯槽膿漏(しそうのうろう)は専門的な用語ではありませんが、一般的に使われています。では、専門的には歯槽膿漏とは何なのでしょうか。歯槽膿漏とは歯周病の病状の一つです。
歯槽膿漏はいきなりなるものでなく、その前の段階があります。その段階で歯ぐきの状態に気づくことで歯槽膿漏を防ぎ、歯を守ることができます。
今回は歯槽膿漏とはどういう状態なのか説明しゆきます。
〇歯槽膿漏とは
「歯槽」は、歯を支える骨にあるくぼみです。
この歯槽により歯は骨に固定されており、上顎と下顎それぞれに歯槽が存在します。 歯槽は歯を支え、保持する役割を果たしています。
膿漏とは、炎症が原因で組織内に膿がたまっている状態を指します。
つまり、歯槽膿漏とは歯を支える組織に炎症が起き、膿がたまることを言います。
歯を支える組織に炎症が起こる疾患は歯周病と言われます。
歯槽膿漏はこの歯周病の進行段階の1つと言えます。
歯槽膿漏になる前、なった後の歯周病の進行段階について説明していきます。
〇歯周病とは
歯周病は、歯についた細菌の塊である汚れにより歯の周囲の組織に炎症性が起こる疾患です。
歯周病の進行過程には前段階の疾患として「歯肉炎」があります。
歯肉炎と歯周病の違いは、炎症がおさまったときに元の健康な状態に戻るかどうかです。
歯肉炎は炎症が引けば元の健康な状態に戻ります。 しかし、歯周病は炎症が引いたとしても骨が溶けた高さのままになります。 そのため「歯ぐきが下がる」ことになります。
では、歯周病の進行段階を説明していきます。
●歯周病の進行段階
歯周病には以下の進行段階があります。
【段階①歯肉炎】
歯と歯ぐきの溝に細菌の塊である歯垢(プラーク)が付着します。 適切に歯みがきがされないと汚れが残り歯ぐきに炎症を起こします。
歯肉炎の主な症状には歯ぐきの腫れ、赤み、歯みがきをしたときの出血が含まれます。
この炎症は歯磨きなど適切な口腔衛生管理が行われると、この炎症はすぐに元通りの健康な歯肉に戻ります。
しかし、歯肉炎が放置されると歯周病へ進む可能性があります。
【段階②歯周病】
歯と歯ぐきの溝についた汚れが体内に入らないように防御する作用が歯肉の炎症です。
歯肉炎として炎症を起こしても細菌の塊である汚れを排除できないと、身体は汚れのつく歯を異物として排除しようとします。 そのため、炎症が長く続くと歯をささえる骨が溶けていきます。 歯がグラグラになってきて、最終的には歯が抜けてしまいます。
歯が抜けてしまえば歯肉に細菌は定着できないため、炎症は治まります。
この炎症の一過程として膿がたまることを「歯槽膿漏」と呼びます。
●歯茎から膿が出る仕組み
膿が出るのは炎症の結果です。膿が出るまでに体内ではどのようなことが起こっているでしょうか。
① 感染と白血球の反応
歯肉が歯垢の塊である歯周病菌などの細菌に感染すると、免疫系が反応して炎症を引き起こします。
② 炎症反応
炎症の起きた場所では血管が拡張し、血液や免疫細胞が感染した歯肉に集まります。 そのため歯肉から出血したり、歯肉が腫れたりします。
③組織の損傷
白血球が細菌と戦う過程で、周囲の組織が損傷を受けることがあります。 この損傷により歯を支える骨は溶け、組織から細胞の破片や細菌、白血球の死骸などが流出します。
④膿の形成
流れ出た細胞のかたまりや炎症反応により、膿が形成されます。
このように体が感染に対抗しようとしている炎症の結果の一つとして膿が出ます。
●歯周病の治療
歯を支える骨も溶け、歯周病菌が歯の根まで達すればむし歯がなくても歯の神経が感染し炎症を起こすため、根管治療という歯の神経をとる処置が必要になる場合もあります。
また、溶けた骨はまた元のようには再生しません。 歯を支える骨が少なくなり、歯がグラグラして痛むようなら抜歯するしか方法はありません。
このようになる前に歯周病の治療をすることが大切です。
歯周病の治療は以下のように進みます。
【歯周病の治療①歯磨きと口腔衛生の改善】
歯垢や歯石の除去、正しい歯磨きの指導が含まれます。 ねばねばした歯垢はマウスウォッシュや歯みがき粉の薬用成分が浸透しません。 歯垢をとるにはしっかり歯ブラシでこすることが大切です。
また、むし歯の穴や歯の神経の炎症が原因での歯周病は、先に歯の治療を行う場合があります。
【歯周病の治療②生活習慣の改善】
喫煙や食事習慣などの生活習慣の改善も歯周病の管理に重要です。
【歯周病の治療③歯科医院での専門的なクリーニング】
歯石のように固まった汚れは歯科医師や歯科衛生士でないと除去することはできません。 歯石自体は悪さをしませんが、歯石は軽石のようにざらざらして穴があいているため汚れがつきやすくとりにくくなり、この汚れが悪さをします。
また、歯ぐきが腫れてできる「歯周ポケット」と呼ばれる歯肉の溝のクリーニングは家ではできません。 見えている部分の汚れはセルフケアで落とし、見えない部分や取り残している部分の汚れはプロフェッショナルケアで落とします
【歯周病の治療④歯周外科手術】
以上の治療で改善しない部分には、骨を作る手術や歯肉の形を整える手術が必要な場合があります。
歯周病の進行具合によって治療が異なるため、歯科医に相談し、専門的なアドバイスを受けることが大切です。早期の治療が重要で、放置すると歯を失う可能性が高まります。
〇まとめ
歯周病によって溶けた骨は、骨を作る手術をしない限りもとに戻りません。 骨を作る手術にも適応できる場合とできない場合があり、必ず回復できるわけではありません。
歯槽膿漏と呼ばれる歯ぐきに膿が溜まった状態は、歯周病としてはかなり進んだ状態で抜歯も検討しなければならない場合があります。
早期に気づき、適切な治療を行えば、歯を守ることができるので、早めに歯科医院を受診しましょう。