よく永久歯を抜歯する際に「歯がまた生えてくればいいのに?」とお話頂くことが多いです。    これからお話するような理由で、永久歯は一度しか生えてこないと考えられています。       歯の重要性を改めて認識するようなお話をさせて頂ければと思います。

〇永久歯が生えないとは?

まず、歯科的に、永久歯が生えない原因は、永久歯先天性欠如と埋伏歯に分けられます。

●永久歯先天性欠如

永久歯先天性欠如とは、永久歯が存在せず、乳歯が抜けずに残っている状態です。         ふつう乳歯の下の永久歯が育つと、乳歯の根が自然に溶け、生え変わります。           永久歯先天性欠如は、その永久歯が存在しない為に起こります。                 永久歯先天性欠如の治療は、その乳歯がまだあるか無いかにより異なります。             まだある時は、そのままその乳歯を使ってゆきます。                      しかし、その乳歯は永久歯よりも小さく弱いため、大人になると抜けてしまいます。         永久歯先天性欠如で、その乳歯が抜けている場合は、入れ歯やブリッジやインプラントで補います。 歯が抜けたままでいると、咀嚼しにくかったり、隣の歯や向かいの歯に影響を与えたりすることがあります。                                            早めに治療することが大切です。

●埋伏歯

埋伏歯とは、その永久歯があるのに骨の外に生えてこない状態です。               その永久歯が歯茎や顎の骨に埋まっている状態です。                      原因は、永久歯が生えるための顎の広さが十分でないためです。                 治療方法は、埋まっている状態によります。                          そのままにする場合は、上顎の犬歯などで、問題が少ない時です。                抜歯をする場合は、正中過剰埋伏歯のため、上顎の中切歯の間があき、              歯並びが悪い原因になっている時などです。                          親知らずが歯の周囲炎や隣在歯の虫歯の原因になっている時は、                  抜歯せざるをえない事もあります。

〇歯が一度生え変わる理由とは?

人の歯が一度生え変わる理由は、2つの理由があります。

●顎の形の成長に合わせて大きな歯を生えさせる為

顎の成長に合わせて大きな歯が必要になります。                        子どもと大人では、体の大きさ、顎の大きさが違います。                    小さな顎に、永久歯のように大きく、数の多い歯は収まりきりません。              小さめの歯である乳歯は生後半年頃に生え、2歳半頃に乳歯が生え揃います。            顎骨が成長するにつれ大きな歯が必要になります。                       もしも、乳歯のままで生え変わりが無ければ、大人になるにつれ、                歯と歯の間に隙間が大きくなり、問題が出てきます。

●丈夫な歯にする為

永久歯は、一生使うものなので、エナメル質・象牙質の厚みは、乳歯の2倍程あります。       この為、乳歯より長く、70年程を永久歯で過ごせる丈夫さがあります。              歯の役割は咀嚼・発音などの様々な重要な役割があり、永久歯は約70年もその役割を担えます。    永久歯が乳歯よりも丈夫で大きいからです。

〇他の生物では

他の動物では、歯が何度も生え変わる物もいます。サメや恐竜がよく報道されています。

●恐竜

恐竜も何回も歯が生え変わっていたそうです。                         ティラノサウルスは2年に1回位で歯が新しい歯に生え変わっていたそうです。          しかし、サメや恐竜は、人ほど複雑な歯の形をしておらず、簡単な形をしています。        また、鋭いけれど丈夫ではなく、簡単に折れたりするため、                   新しい歯に変えていかないと餌を食べられません。

●サメ

サメの歯は、何度でも生え変わります。                            人の歯は、子どもの頃に乳歯から永久歯に生え変わり、その後は抜けても生えてきません。     しかし、サメの歯は、次々に歯が生え変わります。                       サメの歯は、複数の歯列で構成されています。                         1つの歯列には数本~数十本の歯があります。                         サメの口には、上下それぞれに複数の歯列があります。                       例えば、ホホジロザメは上下顎それぞれ約15列の歯列を持ち、                  上顎下顎で合計約3000本もの歯があります。                          サメは歯が1本でも欠けると、新しい歯が古い歯を押し出して、歯列毎に新しい物と交換されます。  歯列は何回でも生え変わり、1尾のサメが一生で使う歯は数千本といわれています。         1番外側の歯のすぐ後ろに、予備の歯が順番待ちしています。                   使っている1番外側の歯が抜け落ちると、予備の歯が外側へと移動してきます。           サメは、種類によりますが数日~10日で生え変わるといわれています。              こうしてサメの歯は、常に新しく新鮮な状態を保っており、鋭く強力な歯となっています。     サメは一生の間に1000回も歯が生え変わるそうです。 

〇サメの歯のデメリット

何度も生え変わるサメの歯ですが、もちろんデメリットもあります。

●歯根膜が無い

サメの歯には歯根膜はありません。                              そのため、強い力がかかると折れやすいという特徴があります。                 歯根膜があれば、歯と歯槽骨の結びつきが強くなり、触覚・痛覚を感じることができます。     そのため、噛んだ時の硬さや微妙な感触、刺激を感知して、噛み方を調整できます。        また、大きすぎる力が歯に加わらないように調整できます。                   歯への栄養供給もしやすく歯が丈夫で折れにくくなります。

●歯の形

サメの歯は、先が尖った歯ばかりで、人のように前歯、犬歯、奥歯の3種類の歯はありません。     そのため噛む動作だけで、嚙み潰したり切り裂いたりという事には使い勝手が悪いです。      サメは歯を餌に引っかけ、全身の運動で食いちぎろうとします。                 そして、そのまま丸飲みします。                               食事を味わうことは出来ません。

〇まとめ

乳歯、永久歯と人の歯はとても精巧に出来ています。                      何年もかけて作り上げる複雑なものなので、永久歯は一度しか生えてきません。          無くさないよう大事にしてゆきましょう。