こんにちは

テレビでの健康番組で「食後すぐに歯を磨くのは歯が削れてしまうので良くない。15分以上経ってから歯磨きした方が、歯に良い」と、コメンテーターの方がお話になっているのを見ました。

食べたら歯を磨くというのは、昔から言われ続けてきたことですが、「食事から15分以内に歯磨きするとかえって歯に良くない」「しばらく経ってから歯を磨く方が歯に良い」というのは本当なのでしょうか。

今回は、食後すぐに歯を磨いてもいいのか、それともテレビで言っているように15分以上待ってから歯磨きした方がいいのかについてお話しします。

〇食後15分以上経ってから歯磨きをするように言われるようになった理由

食後すぐに歯を磨くと、かえって歯によくないと言われるようになった背景には、ある実験の結果があります。

それは、アメリカで行われた試験管を使った実験です。

この実験は、歯の酸に対する抵抗力を測る目的で行われました。

歯の大部分はやわらかい象牙質でできており、歯冠の表面を骨よりも硬いと言われるエナメル質で覆うことで、やわらかい象牙質を守っています。

アメリカで行われた実験では、歯の象牙質の一部を採取して試験管に入れ、酸性度の高い炭酸飲料に90秒間、浸しました。

そして、その後、炭酸飲料に浸していた象牙質を試験管から取り出し、お口に戻します。

お口に戻した直後に歯磨きした場合と、15分以上待ってから歯磨きをした場合で、酸の歯に対する影響を比べたのです。

ここまでお読みになって、お気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんが、この実験は虫歯を再現した実験ではありません。

あくまでも酸による歯へのダメージ、つまり酸蝕症の影響を調べた実験だったのです。

テレビの健康番組では、意図的かどうかはわかりませんが、酸蝕症の実験を虫歯と歯磨きの実験として報道していたわけです。

〇各歯科学会などからの見解

食後すぐに歯を磨いてはいけないというコメントが報道されて以来、さまざまな歯科関係の学会や団体から歯磨きに関する見解が発表されています。

●日本小児歯科学会

日本小児歯科学会は、お子さんの虫歯や歯周病などの専門家が集まった学会です。

この学会では、先にご説明した実験に対して

①歯の表面は象牙質よりも酸に強いエナメル質で守られている

②唾液には酸の中和作用がある

これらの条件から、普通の食事では実験が示すようなことは起こりにくいとしています。

その上で、歯磨きの目的は酸を作り出す細菌やその源となる食べカスを取り除くことにあるとし、歯磨きしないことによって酸が作られる害の方が、歯への悪影響が大きいと述べています。

このことから、日本小児歯科学会では、早めの歯磨きを推奨しています。

●日本歯科保存学会

日本歯科保存学会は、歯をできるだけ抜かずに残すことを目的に虫歯や歯周病などの専門家が集まって作られた学会です。

こちらの学会でも、虫歯を予防するためには、食事の後、早い時間に歯磨きするようにすすめています。

また、酸性度の高い食べ物や飲み物を摂ってから30分間は歯磨きを避ける必要性について、確認できないとしています。

●日本学校歯科医会

日本学校歯科医会は、幼児や児童、生徒のお口の健康向上を目的として設立された団体で、学校での歯科保健活動にあたる学校歯科医を中心に組織されています。

日本学校歯科医会でも、日本小児歯科学会や日本歯科保存学会などの歯科関係の学会の見解を受けて、学校教育という面から食後すぐの歯磨きをすすめています。

食事から15分以上待つことなく、時間を空けない歯磨き習慣を身につけられるよう、日本学校歯科医会では指導する方針です。

〇当院での方針

当院も、食後の歯磨きに関して、さまざまな見解があることを理解しています。

その上で、当院では食後の歯磨きのタイミングに関して、15分以上開けてから歯磨きするのではなく、食事が終わったらできるだけ早い段階で歯を磨く方がいいと考えています。

その理由は、歯磨きを15分遅らせると、このわずかな時間にお口に残された食べかすを利用して細菌が増殖し、たくさんの酸を作り出すからです。

酸をたくさん作り出すと、虫歯のリスクがたいへん高くなります。

このため、当院では食後できるだけ早い時間に歯磨きをして、お口の中から少しでも早く食べかすを取り除くべきではないかとしているのです。

〇まとめ

今回は、食後すぐに歯を磨くことの是非についてお話ししました。

歯磨きは、今も昔も虫歯予防の基本であることには変わりありません。

特に大切なのが、歯と歯の間です。

虫歯や歯周病の多くが、歯と歯の間から始まるからです。

当院では、食後15分待つのではなく、できるだけ早い時間に歯を磨き、お口の中から食べかすを取り除くことが虫歯予防に大切と考えています。

少なくとも、歯と歯の間だけでもきれいにしておくべきで、このために必要なのはデンタルフロスや歯間ブラシです。

歯ブラシで歯の表面をきれいにするのは、歯の表面にプラークがついてからでもいいので、まずは歯と歯の間だけでもきれいにしてください。