〇顎関節症とは
顎関節症は、虫歯や歯周病と並んでよく見られる疾患です。 一般的によく想起されるのは顎がカクカクなったり、顎が開かなくなるという状態かと思います。 日本顎関節学会の概念では顎関節症というのは
「顎関節や咀嚼筋の疼痛、顎関節雑音、開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする障害の包括的診断名である。その病態は咀嚼筋痛障害、顎関節痛障害、 顎関節円板障害および変形性顎関節症である。」としています。
つまり、顎がなったり、開かなくなったりするだけでなく、顎を閉じる時に使われる筋肉や靭帯、顎の痛みなどもここに含まれることになります。
●顎関節症の原因
顎関節症の原因は残念ながらわかっていないことが多いです。 1つの原因ではなくいくつかの要因が絡んでいると考えられています。 緊張する仕事や力仕事、長時間のデスクワーク、日常生活における歯ぎしりや頬杖などの習慣の有無、睡眠時の姿勢、硬い食べ物をよく食べるなどの環境因子や行動因子に起因するものがあります。 その他にも個人の歯並び、噛み合わせの状態、顎の形態も影響していることが考えられています。 いくつもの因子が絡む疾患なので治療が難しいこともあります。
●顎関節症を気にしている方はどれくらいいる?
少し古いデータではありますが、2016年における厚労省の歯科疾患実態調査では口を開けた時に顎の音がなる人は550/3655で約15.0%、その際に痛みがある人は121/3665人で約3.3%でした。 顎がなる人の男女比は女性の方が多い結果でした。 痛みがある人は男女比でさほど差はありません。 いづれにしても、顎関節症は珍しい疾患ではないことがここからもわかると思います。
〇顎関節症の種類
顎関節症にはいくつかの種類があります。 病態によって分けられるので、顎関節症の方はどれに自分が当てはまるかを歯科医院で確認してもらう必要があります。
●顎関節症の種類 咀嚼筋痛障害(Ⅰ型)
咀嚼筋痛障害は咀嚼筋痛(噛む時に使う筋肉の痛み)とそれによる機能障害を主徴候とするもので、主症状としては筋痛、運動時痛、顎運動障害があります。
●顎関節症の種類 顎関節痛障害(Ⅱ型)
顎関節痛障害は顎関節痛とそれによる機能障害を主徴候とするものです。 顎関節円 板障害、変形性顎関節症、内在性外傷(硬固物の無理な咀嚼、大あくび、睡眠時のはぎしりなど)などによって顎の開閉時の顎関節痛や顎運動障害がおきている病態です。
●顎関節症の種類 顎関節円板障害(Ⅲ型)
関節円板は頭の骨と顎の骨の間にあるクッション材のようなものです。 この動きがスムーズにいかないとカクカクという音がなります。 顎関節症というとこの状態を想像しやすいと思います。 Ⅲ型はさらに2種類に分けられます。 関節円板が定位置に戻る場合と戻らない場合です。 前者はカクカクと音が鳴りますが、後者は定位置に戻らず口を開ける際にうまく開かない状態になります。 酷くなると指が一本口に入らないほどに口が開けられなくなります。
●顎関節症の種類 変形性顎関節症(Ⅳ型)
この病態は顎の骨自体が変わってしまう病態です。 関節円板もすり減り、骨と骨が直接擦れるようにジャリジャリ音がなったり痛みや開口障害を伴うことがあります。
いくつかの病態を複合している場合もあり、どれが相当しているかを見極めて治療に移ることが大切です。
〇顎関節症の治療法
顎関節症の治療目標は日常生活に困らないほどに顎関節痛や咀嚼筋痛、開口障害などの顎関節症の症状を回復させることです。 顎関節症の自然経過を調べた研究では、顎関節症は時間経過とともに改善し、治癒していくことが多い疾患であることが示されています。 従ってできるだけ顎の安静を保ち、保存的で可逆的な治療を行うことがほとんどです。 例えば歯を削るなどは元に戻せない治療になるので不可逆的な治療です。 第一選択の治療にはなりません。
●顎関節症の治療法の実際
顎関節症の治療法としては理学療法、薬物療法、アプライアンス療法などを主体として可逆的な治療が行われます。 基本的には顎を労わることが症状を改善させることにつながります。 薬物療法は薬を飲んで顎関節症が治るわけではなく、痛みを抑える目的で使用されます。 アプライアンス療法は歯の全体あるいは一部を硬性あるいは軟性プラスチック材料で覆って咀嚼筋の緊張緩和などを目的に装着されるものです。 簡単にいうとマウスピースを想像してもらえると良いと思います。 これは原則夜間就寝時に使用します。 日中も使用すると顎の位置が変化することもあり副作用が出る可能性があり注意が必要です。
●顎関節症の治療法の実際 なかなか治らない場合
一般的には上記の治療がなされることが多く、改善することが多いです。 しかし、中には効果が出ない場合があります。 深刻な開口障害や痛み等の症状が3ヶ月以上続いている場合や、顎関節症の基本治療を2週間から1ヶ月、長くとも3ヶ月間程度行っても痛みなどの各種症状が改善しないことがある場合は専門医または大学病院に紹介されることがあります。
〇まとめ
顎関節症について少し理解が深まったでしょうか。 顎関節症は決して珍しい疾患ではなく、比較的多く見られる疾患です。 要因は多岐にあるため定まりませんが、顎への負担を軽減するようにしたり、アプライアンス療法により改善が見込まれます。 しかし、中には治療効果が出ない場合もあります。基本的には早期に治療した方が治りやすいので、顎の症状が気になる方は早めに歯科医院を受診しましょう。